7月 25, 2024
昔、海外でストリートミュージシャンによるジャズ演奏を聴いたことがありました。
ピアニストの素晴らしい演奏でちょっとした人だかりになっていましたが、少しすると人混みの中からベースのお兄さんが参加してきて、さらに女性のサックス奏者も入ってきて…。
後から入ってきたお兄さんやお姉さんが仕込だったかのか、本当にたまたま出くわしただけなのかわかりませんが、たいして知識もないなりに「これがジャズセッションか!」と感動したのはいい思い出です。
そんなセッションをワインスクールでお目にかかることになるとは思ってはいませんでした。
ワイン、ジャーナリスト、ソムリエが織りなす一日限りのセッションをご紹介させていただきます。
本セミナーは、著名なワインジャーナリストである柳 忠之さんによる、フィサンの一級畑クロ・ド・ラ・ペリエールを単独所有するドメーヌ・ジョリエの赤白垂直試飲という貴重な機会です。
貴重とは言っても、フィサンといえばブルゴーニュの中でもマイナーな産地…。正直、なんでわざわざフィサンにフォーカスするのだろうという気持ちはぬぐえませんでした。
しかし話を聞いてみると、ドメーヌ・ジョリエと柳さんの縁は5,6年前までさかのぼり、ジョリエ側からのコンタクトに始まり,柳さんのドメーヌ訪問、去年末に記事にしてほしいからとジョリエから特別に取り寄せ、今回のセミナーに繋がったということです。
グイグイ引っ張るジョリエと、それに丁寧に応える柳さんのジャズセッションさながらの掛け合いが、なんて頭の中で脱線している間にもセミナーは進行していきます。
マルサネとジュヴレ・シャンベルタンの間に挟まれたフィサン村とそこの一級畑クロ・ド・ラペリエールの歴史、テロワールと話が進んでいきますが、土壌のしかも石灰質土壌だけでもこんなに語ることってあるんだと驚くほどの豊かな情報は、ジャーナリストならではです。
さてこれから試飲というタイミングで、ドメーヌ・ジョリエのワインは最近某三ツ星フレンチが買い占めていると言われると、ミーハー心が躍ります。
試飲はブルゴーニュ式に最初に赤ワイン、そのあと白ワインという順序。赤も白もクロ・ド・ラペリエールの2020年・2021年・2022年の垂直試飲です。
(余談ですが、柳さんがジョリエに各ヴィンテージの情報を求めたところ、返ってきたのはそれぞれ一行足らずの基本的な説明のみだったとのこと。そんな生産者の肩の力の抜けた姿勢にもジャズ味を感じます笑)
ワインの素晴らしさは言うまでもないのですが、ここで新しいセッションが始まります。
試飲中に柳さんがコメントを求めた相手はなんと銀座レカンの総支配人の近藤ソムリエ。試飲してから間もない時間にもかかわらず、外観・香り・味わい、合わせる料理とすらすらとコメントが出てくる様は「さすが」の一言。
2022年の赤ワインを飲んで、「若干ピンクがかった色合いしているので、暑かったことで果皮が分厚くなったことがわかります。」と言われて、シャーロック・ホームズの推理を聞くワトソン博士の心持ちがわかった気がしました。
2020年のワインを見て、「リム(ワインとグラスが接する縁の部分)が少し透明になっているのがわかりますか?これは全房発酵させている可能性が高い証拠なんですよ。」と、飲むほどに推理の切れが増していくタイプの名探偵なんでしょうか(失礼)。一同感心しきりだったことは言うまでもないでしょう。
次は白ワイン3種類です。こちらも柳さんの解説から始まり、途中から近藤さんにバトンが渡されます。
柳さんと近藤さんのセッションは、冗談を交えながらコート・ド・ボーヌとの比較やペアリングの可能性まで幅広く広がっていきます。
フィサンをはじめとしたニュイの重心の軽さとしみ込んでくるイメージに対して、ボーヌの重心の重さと舌を包み込むようなニュアンスとかとか、これは是非飲んで体験していただきたいです。
セミナーも終盤に近づくと、受講者のみなさんも程よくお酒が回ってきたこともあり、受講者同士での会話もはずみ、ワイン・ジャーナリスト・ソムリエのトリオセッションはいつの間にか受講者も交えたカルテットになっていました。
ジャズトリオの王道のひとつでもあるビル・エヴァンス・トリオの、ビル・エヴァンスは“Music is universal language(音楽は万国共通の言語である)”と言っていましたが、あらためてワインが国境も世代も立場も超えるコミュニケーションツールであると再認識させてもらえたセミナーでした。
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