1月 30, 2023
「ワインの仕事をしているけど、将来的なキャリアプランがイメージできない…」
「真面目にワインの勉強をしているけど、最終的にどうなりたいかと言われると…」
「とりあえずワインの資格をとったけど、どう活かせば…」
現状にとくに不満があるわけではないけど、このような不安を抱えている人、
せっかくの資格を仕事に活かしたいけど、どうすればいいかわからない人、
実は多いのではないでしょうか?
“The ワインキャリア”では、ワインを仕事にユニークな活躍をされている方にスポットを当てて、みなさんの今後のキャリアを考える一つのきっかけにしていただく企画です。
第一回の今回は、サントリー株式会社で唯一のワインエデュケーターにしてワインテイスターである柳原亮さんにお話をうかがっていきます。
柳原さんの社会人人生はサントリー入社から始まります。最初の配属は営業でした。
入社時はワインよりもウィスキーに興味があった柳原さんですが、入社年の1997年、翌1998年はポリフェノール人気に端を発する赤ワインブームの時代でした。
出典:メルシャン株式会社
伸びていくワイン需要に応えるため、ワインの勉強を始めることになります。
当時は今ほどワインの価格も高騰しておらず、ブルゴーニュのグランクリュでもボルドーの1級シャトーでも少し背伸びすれば買える金額だったので経験を積むことができた、と柳原さんは述懐します。
ワインアドバイザーの資格もこの時に取得しますが、柳原さんが本当にワインに興味を持ち始めるのは、意外にもこの時ではありません。
社会人7年目に入り、出向先で清涼飲料などを中心に扱う、ワインから離れた時期に柳原さんのワインへの熱が高まっていきます。
「趣味としてワインと向き合うことができ、仕事関係なく様々なワインに触れることができたのが、本当にワインにはまったきっかけです。」
柳原さんはそのように語ります。
出向中にシニアワインアドバイザーの資格も取得し、2009年には本社にもどって再びお酒のポジションに戻ることになります。
その際の配属先こそ、仕入れるワインの試飲、選定を行い、製造しているワインのブレンド比率を決めたりするワインテイスター、社内セミナーなどを行うワインエデュケーターを担うポジションでした。
前任の方の後継をちょうど探していたタイミングで運もあったと、柳原さんはお話してくれましたが、シニア資格まで取得し、自社商品に限らず、市場に出回る多くのワインを飲んできた経験があればこその任命であることは間違いありません。
柳原さんにこれからワイン業界を志す人や業界の若手へのコメントを求めると、
「とにかく飲んで飲んで、飲みまくってほしい」
とのこと。
自身も未だにワイン業界の横のつながりでワイン会を主催するなど、プライベートでも様々なワインを飲むことは怠ることなく、さらに2009年以降飲んだワインは全てエクセルにまとめているというから驚きです(その数は4万件以上に及ぶとのこと)。
「わたし自身、最初はとりあえず美味しいから飲むというところからスタートして、その後に科学的なワインの解説などが広まるようになって、今まで自分の頭の中にあったマップと科学的な知見で構築できるマップが照らしあわされていく、というような経験をしました。しかし、それができたのも結局はそれぞれのワインを飲んだ体験があればこそだったんですよね。」
一定期間かけて詰め込んで勉強することは可能ですが、一定期間で飲めるワインの量は身体的にも経済的にも限られてしまいます。だからこそ、機会を見つけて、あるいは日常的に様々なワインを飲むことを意識しておくことが必要なのかもしれません。
サントリーで唯一のワインテイスター/ワインエデュケーターにして、2013年にはワインアドバイザー選手権に初参加で準優勝、日本ソムリエ協会のブラインドコンテストでも準優勝と輝かしい経歴の柳原さんですが、
「実はワイン業界でしっかりやってこられている方と比較すると、ちゃんと飲み始めたのも遅かったんです。」
たしかに、柳原さんが本当にワインにはまったと仰っていたのは、社会人7年目以降で、本格的にワインを仕事にされ始めたのが12年目と考えると、新卒後すぐにワイン業界に入った人と比べると決して早くはありません。
また、言語も苦手だけど英語が少しできる程度と、英語、フランス語、イタリア語などを流暢に扱う人が多いこの業界では決して言語能力が高いわけではなさそうです。
お話をうかがっていると、いくつかの柳原さんのキャリアの秘訣が見えてくるようでした。
・膨大なインプットとアウトプット
・ベースとして趣味としてのワインがあるのでパッションが尽きない
・最初はワインの仕事ではなかったため、客観的に市場を見ることができた
・大企業として市場全体を見るビジネス視点と個人のワイン会などを通じたエモーショナルな視点を併せ持っている
最後に、「ワインという仕事において、もっとも影響を受けた人」を尋ねてみると、
「基本独学でやってきたから、ワインの師みたいな人はいないけど、ワイン業界での横のつながりは大きな財産になっています。会社では聞けない率直な意見を聞けたり、と良い刺激になっています。」
柳原さんを取材していて印象的だったのは、仕事としてのワインと趣味としてのワインのバランス感です。
ワイン愛が強すぎるあまりビジネス的に視野が狭くなっている人、ワインを仕事と割り切って情熱を感じない人、のようにネガティブに作用し合うことの多い二つの要素ですが、柳原さんの場合はそのバランスが見事に保たれていて、むしろ両方あることがそれぞれに良い影響を与え合っているのだろうな、と感じさせてくれるほどでした。
今後はより消費に近い場にも出ていきたいと語る柳原さん、また新たなステージでお話うかがえることをワインプラス編集部も楽しみにしています。
© 2024 @ THE WINE EXPERIENCE Co., Ltd.