12月 22, 2025
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、1世紀以上の歴史を誇るシャンパーニュ、Castelnau(カステルノー)の現セラーマスターであるCarine Bailleul(カリーヌ・バイユル)さんにお話をうかがいました。

シャンパーニュセラーマスターへのキャリアパス、そういえば考え方こともありませんでした。
ワインというフランスのお家芸の中でも特筆するブランド力の高さから、日本の歌舞伎のような世襲といった閉じた世界を想像されるかもしれません。
しかし、カリーヌさんの出身はリヨンからほど近いディというスパークリングワインで有名なワイン産地の山の中でした。
「言うなればジブリの世界みたいな感じね。」
カリーヌさんは自身が育った環境をそのように教えてくれました。
ご両親は農家として、小麦にラベンダーのようなハーブにと多種多様な農作物を栽培し、羊まで育てていたそうです。
さらに民宿を経営していたこともあって、家ではお母さまの料理の香りも漂い、さながらアロマブーケの中で暮らしていたと述懐します。
なるほど、だからワインの道に!と膝を打った方も多いかもしれませんが、高校生のカリーヌさんの将来の夢は、なんと「看護師」だったそうです。
チームで一体となって人を助ける看護師という仕事に憧れたそうです。
しかし、幸か不幸か高校卒業しての看護師の試験に落ちてしまい、縁のあった農業の専門学校に進学することになります。
先述したように、クレレット・ド・ディーはワイン産地として瓶内二次発酵で造られるスパークリングワインが有名でした。カリーヌさんがワイン、とくにスパークリングワインと出会うのに時間はかかりませんでした。
「酵母という微生物が、ワインのような素晴らしい香りを創り出す、魔法のような出来事に深い感銘を受けました。」
フランスに五校あるワインの学校(ディジョン、モンペリエ、トゥールーズ、ボルドー、ランス)の中でも、シャンパーニュ地方に本拠地を構えるランス大学へ進学したのも頷けます。
ランス大学の最終学年で出会ったのが、今日醸造責任者まで務めるカステルノーでした。

フランスの大学で卒業要件にもなるスタージュ(*フランス版インターン)を通して、2003年にカステルノーに入社します。
ところでカステルノーは、協同組合という企業形態をとっています。
ワインの世界では、ブドウを栽培する人とワインを造る人は分かれていることが多々あります。メゾンと呼ばれる大手メーカーはブドウ栽培農家からブドウを調達し自社シャンパーニュを造ります。対して、レコルタン・マニピュランと呼ばれる小規模メーカーは、ブドウの栽培からシャンパーニュ造りまでを一貫して行います。
協同組合方式とは、その中間。複数の栽培農家が自分たちのブドウを持ち寄ってシャンパーニュを造っていきます。
カステルノーの場合は、畑面積はおよそ800ヘクタールで同数の約800軒の栽培農家から構成されています。
カリーヌさんは、そのような協同組合を「大地をともにつくっていく家族的共同体」だと語ります。
土づくりからブドウ栽培、ワイン醸造まで様々な場所に多様な職人がいると仰いますが、カリーヌさんはインターンの間、そのような工程をダイジェスト的に全て見て経験させてもらうことができたそうです。
2008年からワインメーカーのチームに入ったそうですが、そこではまずは熟成したワインの澱を取り除くデコルジュマンから始まり、シャンパーニュの瓶詰(ボトリング)、シャンパーニュの発酵タンクの管理、そしてさまざまな栽培農家からあがってきたブドウのブレンド比率を決めるアッサンブラージュと製造工程をさかのぼるように経験していき、2020年から醸造責任者の役職に就きます。

「製造工程を逆行するように経験できたのは、ことカステルノーにおいては非常に有意義でした。カステルノーと他のシャンパーニュメーカーの決定的な違いは、熟成期間の長さです。つまり、シャンパーニュを仕込むときに、5年後10年後の姿を想像できないと仕事にならないのです。」
時間経過を逆にたどることができたことで、結果と原因の因果をより深く理解できたそうです。
数百の農家を代表してシャンパーニュを造るという重圧を感じながら、それでもモチベーション高くシャンパーニュを造り続けられる理由を聞いてみると、
「やはり1世紀以上の歴史を持つカステルノーというメーカーの歴史のバトンを託されているという矜持はあります。でも、それだけではなく、長い瓶内熟成について研究すればするほどわからないことが増えていく。それを知りたいという好奇心もあります。だって考えてみてください、たった1本のシャンパーニュに地球全体の人口くらいの微生物が活動しているんです。わたしたちは小宇宙を飲んでいるといっても過言ではありません!」
目を輝かせながら、そう答えるカリーヌさんからは、好奇心に突き動かされる子供のような純真さが垣間見えました。

今回は特別にカリーヌさんにシャンパーニュメーカーの秘訣をうかがってみました。
高いコミュニケーション力
専門的な科学的見地
好奇心と情熱
シャンパーニュ造りは、あくまでチーム戦。様々な意見調整をしながら進めていくには、高いコミュニケーション能力は欠かせません。
そして、言わずもがな、シャンパーニュボトルという小宇宙の中で起こっていることを科学的に理解、分析するための知見と飽きることない好奇心は不可欠だと語ります。
カリーヌさん自身も休みの日は、だいたい図書館で専門書などを読み漁っていると言います。仕事と趣味の垣根がなくなるほどの尽きない興味関心をもっているからこそ熱心であり続けるのでしょう。
最後に、ワイン人気低下やフランス政府のブドウ樹引き抜き奨励など逆風が吹くフランスのワイン業界のひとりとしての胸の内を訊いてみました。
「たしかに、現在のワイン市場は必ずしも好ましいものではありません。しかし、わたしたちがすべきことは、これまでブランドを積み重ねてきてくれた先人に恥じることない丁寧なシャンパーニュ造りだけです。トレンドの浮き沈みはあっても、真に高品質なものは廃れない、そう信じて美味しいシャンパーニュを造り続けます。」
カステルノー一筋のカリーヌさんの物語を思い起こしながら、長い熟成という時間に裏打ちされた価値を感じることができるカステルノーを是非ご賞味ください。
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