12月 16, 2025
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、ミシュラン星付き店での支配人やトランジットグループのヘッドソムリエを務め、木村拓哉さん主演のTBSドラマ『グランメゾン東京』のワイン監修を務めた、成澤亨太さんにお話をうかがいました。

成澤さんのファーストキャリアは、なんと美容師だったそうです。
接客というコミュニケーションが好きで美容師になったそうですが、時は空前のカリスマ美容師ブーム。働き手過多の業界は、お世辞にも良い労働環境とは言えず、同じようにマンツーマンで接客ができるバーテンダーに転向を決めます。
全ての評価が自分に返ってくる、そんなシビアながらもシンプルな世界に満足はしていましたが、転機は突然やってきます。
バーテンダーとして3~4年の経験を積んだある日のことです。お客さまのひとりであった麻布十番のイタリアン経営者から繁忙期に手伝ってほしいと依頼を受けます。
「レストランでの経験は衝撃でした。バーテンダーが個人競技なら、レストランでの接客はチーム競技。キッチンとホールの連携は言うまでもなく、料理の原料をつくる生産者から、ワインの流通、実際の提供までスケールの大きなサプライチェーンの物語を感じざるをえませんでした。」
チーム競技ならではの達成感の大きさ、共有できる喜びもまたレストランを志すきっかけになったと語ります。
新天地は横浜の150席ある大箱イタリアンでした。入社早々にワイン知識の重要性を感じ、隙間時間をフル活用して、半年でソムリエ資格を取得します。
さらに、自分で集客できるソムリエになるために、当時人気だったブログをはじめ、ワイン会への導線づくりも自らやっていたそうです。
そんなひたむきな努力の裏にあったのは、レストランで働くのが出遅れてしまったことへの「劣等感」だった――――成澤さんは語ります。
しかし、堅実な努力を見てくれている人はいるもので、すぐに会社の本店がある銀座に移動となりました。
よりレベルの高い同僚との切磋琢磨の日々も数年が過ぎ、まもなく30歳になろうかという頃、成澤さんに第二の転機が訪れます。
きっかけをくれたのは、成澤さんのお母さま。食べることが好きだったお母さまが、三ツ星ロオジエのランチをご馳走してくれたのです。

「初めてグランメゾンを体験し、イタリアンとはまた違ったフレンチの所作、食の体験に感動しました。」
早々に上司に相談して、フレンチへの転職を決めます。さらにこのときに、成澤さんは人生設計を組み立てたと述懐します。
40歳で幅広い仕事を受けられる名の通ったソムリエとなる。そのために星付き店で結果を残す。さらに、そのためにまずは厳しい環境に身をおき、そこで結果を出す。
成澤さんの立てた計画は、ざっくりとはそのようなものだったそうです。
転職先は、前職の上司が教えてくれた、レカンやフランスの名店でも経験を積んだ実力派シェフが経営する銀座にあるロドラントミノルナキジンの支配人ポジション。
毎日怒られてばかりの日々だった――そう教えてくれました。普段の所作がサービスに顕れる。その考えのもと、プライベートでも銀座に入れば、ロドラントミノルナキジンの支配人として立ち振る舞う。
基本のマインドセットから鍛え抜かれた3年半だったと述懐します。
次なる舞台は、成澤さんとしても初めての経験となるミシュラン店。麻布十番のリベルテ・ア・ターブル・ド・タケダ(現在は閉店)に支配人兼ヘッドソムリエとして入ります。
初めてのミシュランの星の重みを感じながらも、グローバルの中での日本という立ち位置を明確化するために国産ワインの充実化や日本茶のペアリングなど積極的に取り組みます。
結果、武田シェフの海外渡航にともない閉店となる2017年には二ツ星に手が届くほどとなりました。
次なる舞台は、パリで人気店として知られていたレストランTOYOの日本初進出の店舗となるレストランTOYO東京です。
「新店オープニングというまだ経験できていなかった仕事は今後必要なスキルだと決意しました。」
オープニングにあたっての人事面接、銀行へ提出する事業計画書の作成など様々な新しいことに挑戦しながら、2018年から2024年まで働き続けます。
TOYO在籍中、冒頭でも触れたTBSドラマ『グランメゾン東京』やネスプレッソでのパートナーソムリエなど29歳の頃に計画していた「幅広い仕事」を受けるようになっていきます。
『グランメゾン東京』では、料理に合わせるワインの相談はもちろん、特定のシーン(腹黒いレストラン経営者から銀行員へのプレゼント、お料理教室でのママさんの差し入れ等)で登場するワインの選定など。やはり、実在のワインを登場させることはできませんが、「あの」ワインを想起させるようになっておりますので、ぜひ探してみてください!
2025年に独立した成澤さんですが、独立に至った想いをうかがうと、
「一番はより求められているところに集中したかったという気持ちです。少しずつTOYOの事業領域ではない依頼も出てきており、個人で受ける案件が増えていましたし、現場レベルではスタッフが成長してくれたことでわたしの出番も少なくなっていました。『成澤じゃないと』と言ってもらえる場所での活動を広げたかったのです。」
今では、日本国内で約140店の飲食店を運営するトランジットグループのヘッドソムリエや昔憧れたロオジエのソムリエ、日本酒メーカーSAKE HUNDREDのテイスターなど、まさに「幅広い仕事」を請け負っています。
さて成澤さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか? お話をうかがった中で感じたのは
逆算志向に基づく計画設計
グリッド力
幅広い能力とスキル
成澤さんは29歳の頃に40歳の自分を想像し、そこから逆算するようにひとつひとつ丁寧に乗り越えてきています。
実際に自分に仕事が舞い込みやすいように、最初は無料で飲食店のワインリスト監修なども行っていたそうです。
そんな逆算志向も大事ですが、計画倒れにならず、やりきるグリッド力こそもしかしたら成澤さんの一番の強みかもしれません。
そして、目標だった幅広い仕事ができているということは、企画力や数字を見る目などこれまで培ってきた幅広い能力やスキルが身についているからに他なりません。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「ソムリエという仕事は専門性の高いスペシャリストのようにも思われがちですが、実は気持ちひとつで、企画力・営業力・経営力など様々なスキルを養えるゼネラリストとしての道も開けていると思っています。そして、そこにソムリエの価値を最大化するヒントがあります。コンクールで何の実績もないわたしがこれだけ幅広い仕事をさせていただいているのですから、おこがましいかもしれませんがわたしのキャリアから何かを参考にしていただけると幸いです。」
これからも成澤さんの様々な取組をお楽しみください!
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