11月 14, 2024
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、五大シャトーのオー・ブリオンを擁するクラレンス・ディロン・ワインズでアジアパシフィックを担当するJeremie Roumegoux(ジェレミ・ルメグ|以下、ジェレミ)さんにお話をうかがいました。
ジェレミさんのご出身は、フランスの北西部に位置するリール。陸軍の祖父、考古学者の両親のもとで成長し、幼いころから世界中の話を聞いて育ちます。
大学卒業後、世界を知るために、祖父とおなじく軍に入隊します。海軍としてブルターニュの海軍学校に入学し、その後はすぐに船上での生活を送ります。
「あるときは西アフリカ、あるときは中東と拠点を移しながら、港に停泊すると、毎晩のようにパーティーをして飲み明かすといった生活をしていました。」
海軍というよりも、まるで海賊のような豪快な生活を体験し、「こんな生活は20代までだな」と思うに至ります。
ただそんなジェレミさんと日本を繋げてくれたのも、海軍の仕事でした。仕事で日本にいったおり、船番をしなくてはならず、せっかくならばと日本の映画や小説を見て過ごしたそうです。
太宰治や黒澤明といったビックネームに感銘を受け、2007年には海軍を辞め、ワーキングホリデービザで日本に降り立ちます。
ただ当時は日本語もまったくだったそうで、最初は外国人向けのハローワークで紹介してもらった塗装屋、次は六本木で西アフリカ人の客引きから紹介してもらったバー、その後に築地の水産仲卸と職を転々としながら過ごしていきます。
水産仲卸の仕事を通じて、少しずつレストランでの仕事にも興味がわいてきたこともあり、高田馬場のフレンチL’Amitie(ラミティエ)で1年間キッチンヘルプとホールで経験を積みます。
ジェレミさんが自身のキャリアの棚卸を始めたのは、ちょうどその頃でした。自分は飲食店にずっと勤めたいのか?自分がこれまで培ってきた知識と経験を活かして、どんなことができるか?
そこで出てきたのが、やはりフランスのお家芸でもある「ワイン」という選択肢でした。
ワインの世界に身を投じるにあたり、まだ自分に足りないものは何か。それはワインの知識であり、業界経験であり、学歴でした。
それら全てを解決できる場所が、フランスのワインの専門大学でした。
逆留学のような形で、シャンパーニュのランス大学に入学し、国際ワイン貿易とマーケティングを学びます。
半年間は、座学と家族経営のシャンパーニュ生産者CHAMPAGNE CHAPUY(シャンパーニュ・シャピュイ)の元での研修、残りの半年は海外でのインターンというスケジュールでした。
しかしすでに日本での経験というアドバンテージのあったジェレミさんはインターン先を決めるかわりに就職先を決めてしまいます。就職先は、ブルゴーニュ、ローヌの協同組合であるPair4Wines & Cave de Lugnyでの日本・韓国エリアマネージャーというポジションでした。
2年ほど経験を積むと会社の経営状態もあり、Thienot Bordeaux-Champagne(以下、ティエノグループ)へ日本のセールスマネージャーとして移籍。その後、活躍が認められ、さらに2年も経たないうちに全アジアパシフィックのセールスマネージャーに昇格します。
ワインの知識を学びながら、通訳やプレス、マスタークラス、輸入元との交渉など多くの業務をこなしていきます。
ティエノグループでは、2013年から2019年の7年間を過ごしますが、分社化などに伴う体制変更をきっかけに、次なる会社Cordier by InVivoに転職します。
InVivoは欧州農業産業の巨大企業で、そのInVivo社が創設したワイン部門がCordier by InVivoとなります。
親会社のネットワークを使って、フランス全土の数あるワイン協同組合へのチャネルが開かれていましたが、高級路線で推し進めようとするトップと農業組合のおりあいがつかないといった内部事情もあり、可能性は感じつつも道半ばで職を辞します。
その後、人づてに今日のClarence Dillon Winesからアジアパシフィック担当の話をもらいます。
冒頭でも説明したように、Clarence Dillon Winesはボルドーで5つしかない一級格付けのワイン、五大シャトーのひとつシャトー・オー・ブリオンをはじめ、名門ブランドを多数所有しています。
アジアパシフィック担当ということで、日本や韓国をはじめ、東南アジア、遠くはタヒチまでを担当し、世界を飛び回りながらご活躍されているそうです。
さてジェレミさんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがった中で感じたのは
・人生の振れ幅
・体力とバイタリティ
・人生の優先順位
ひとつ目は、西アフリカや中東地域での(海賊のような)海軍時代の生活、来日直後の多様な経験、そして、ワイン業界での(一見すると)華やかな仕事とジェレミさんの人生はかなりカラフルなキャリアに彩られています。
異なる社会的レイヤーの様々な人にもまれながら「振れ幅のある経験」を積む方がより価値があるというのはまた同意してもらえることではないでしょうか?
人の魅力を引き出し、地力をつけてくれる、振れ幅のある人生を送ってきたというのは、間違いなくジェレミさんの財産に違いありません。
また、異国での仕事探し、世界を飛び回る業務といった生活を送るには、やはり体力とバイタリティは欠かせません。
最後は、人生の優先順位です。フランス人はそういう人が多いとはよく聞きますが、仕事のための人生ではなく、人生のための仕事という切り分けがしっかりできているように感じました。
ワインという嗜好品(しかも高級ワイン)を生産者に近い立場で顧客と繋りながら扱うにあたっては、知識やスキルだけでなく、そのような気持ちのゆとりは求められているものなのではないかと思います。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「ワイン業界の方は当然グローバルな視点をお持ちの方が多く、様々な国の産地について勉強されていますが、意外と海外のワイン市場をチェックされている方は多くありません。その国にどんなワインが入っており、どんなマーケティングで、どのような売られ方がされているか。海外旅行に行ったときに、スーパーで並んでいるワインを見てみたり、レストランのワインリストを見てみたり、あるいはSNSで色々検索してみるだけでも役に立ちます。最近だと、韓国や台湾のワインマーケティングや販促方法は非情にユニークでおもしろいものがあります。ぜひ、海外のワイン市場を勉強する癖をつけてみてください。日本のワイン業界を生き抜くための大きな武器になるはずです。」
インスタグラムなどで海外のワイン市場をチェックしながら、ワインを楽しむ日があってもいいかもしれませんね。
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