10月 12, 2024
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、30代前半にして、半世紀以上の歴史を持つレカングループの総支配人兼エグゼクティブソムリエに就任した近藤佑哉さんにお話をうかがいました。
今回の取材を通じて、ソムリエとしての姿以上にビジネスマンとしての姿も見せてくれた近藤さんですが、まずは飲食業界の出会いからお話ししましょう。
大学で経済学を学んでいた近藤さんは三年生の頃、就職活動に向けたOB・OG訪問をスタートしていきます。
いくつかの分野で働く何名かの諸先輩の話を聞きにいきますが、「あまり楽しく仕事をできていないんじゃないかな」というのが当時抱いた率直な感想でした。
近藤さんは、あくまで「手に職をつけること」、生きていくには欠かせない「衣食住の分野」で自分が興味を持てそうな仕事を探していくことにします。最終的に行きついたのは、バーテンダーとソムリエという職業でした。ひとまず、飲食の世界に入ることを決意します。
覚悟を決めてから飲食業界を見渡すと、近藤さんはあることに気が付きます。
それは、利益優先でビジネスを行うフランチャイズが業界では大きな影響力を持ち、歴史や伝統を汲み、職人的技術やスキルを集積しているクラシックのようなお店が細々とビジネス展開しているという状況でした。
本来であれば、歴史・技術・スキルの集積点たるクラシックが業界で影響力を持ち、その積み上げてきたものを還元するという構図の方が業界としてあるべき姿なのではないのだろうか?
そして、なんと近藤さんはその思いを、クラシックフレンチの代名詞のような銀座レカンの営業本部長にぶつけてみたのでした。
飲食のことを何も知らないにもかかわらず、日本の飲食業界の問題点を滔々と語る学生。ある程度の社会的経験や立場を持つ人が面白がらないわけがありません。即採用が決まります。
採用が決まると、近藤さんは自ら申し出て洗い場で働くことを決めます。
「洗い場って実はレストランの全てが見えるポジションなんです。キッチンの隣にあるので、使っている調理器具やその使い方も見ることができますし、あがってきた食器やそのタイミングを見れば、それぞれの料理に使われているカトラリーのブランド、今ホールがどういう状況なのかも見えてきます。」
ようやくサービスとしてホールに移ろうかというタイミングで、なんとレカンが入っていたミキモトビルの建て替えに伴い一時休店を余儀なくされます。
レカングループは他にも店舗はあったものの、若い今のうちにグランメゾンの風格を身にまとっておきたいという理由から、グループ内の他店舗ではなく、転職を決めます。
転職先は、こちらもグランメゾンの雄トゥール・ダルジャンです。
はじめてのサービスとしての入社ということもあり、認めてもらえるようにと入社前にチーズプロフェッショナルを取得し、入社後も鴨を捌くカナルディエの資格を取り、お客さんの目の前で肉を捌くデクパージュなど学び、意外にもソムリエ資格を取得したのは26歳と業界に入って4年後のことです。
どんどん技術を身につけ、ついにソムリエ資格をとった優秀な若者がいつまでも見過ごされるわけもなく、2011年J.S.A.全日本最優秀ソムリエコンクール優勝者にして当時のトゥール・ダルジャンシェフソムリエであった谷さんから声をかけてもらえるようになります。
サービスとソムリエはほとんど接点もないような職場だったそうですが、谷さんとの出会いで改めてソムリエに憧れた学生時代の思いが再燃してきます。
ソムリエチームの後押しでコンクールに出場するようになり、2017年の第2回シャブリ杯を皮切りに2023年にボルドーの名門シャトー・アンジェリュスが主宰する第一回トロフェ・アンジュリュスまで、毎年のようにコンクールで結果を残します。
少し時間軸を戻しましょう。近藤さんがまさに様々なコンクールを荒らしまわっていた頃、古巣のレカンから戻ってこないかという話が舞い込んできます。
飲食業界の課題を語っていた当時の近藤さんが、自分の力を証明するように実績を残していっていれば、青臭い理想も地に足のついた目標にかわっていきます。
レカンはマネジメント職としての復職を提案しますが、近藤さんはひとまずソムリエとしてのポジションを希望し、2019年に銀座レカンのソムリエとして復帰します。
翌2020年にはシェフソムリエに昇格し、お酒を飲めない人でもレカンに来てもらいやすくするためノンアルコールペアリングを導入します。
想定通りお酒を飲めない人の来店も増え、さらには客単価も向上してきたことで、会社から認められ、よりカジュアルレンジの上野ブラッスリー・レカンと銀座レカン双方のドリンクを担当する飲料統括マネージャーに昇進します。
レカン全体で近藤さんが担当しているビバレッジ(飲料)部門だけ成長率が突出しているということで、近藤さんに店舗運営全体を任せようという機運が社内で生まれ、2023年には30代前半という若さで総支配人の大抜擢を受けます。
マネジメント側から飲食業界を変えていくという近藤さんの夢が次第に輪郭を帯びてきます。
総支配人として近藤さんが着手したのは、収益性の改善と働き方改革、明確な目標設定でした。
収益性の改善では「お客さんに最大限満足してもらう」という信念のもと、必要な施策を行っていきます。
働き方改革では、従業員の待遇改善を「できる/できない」ではなく、「とにかくやる」という思いで推し進めます。
そして、目標設定においては、銀座レカンがこれまでの歴史で果たせなかったミシュランの星獲得を目指します。結果、なんと総支配人に就任した2023年、銀座レカンは50年の歴史の中で、初めてミシュランの星を獲得します。
さて近藤さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがった中で感じたのは
・THINK BIG, ACT SMALL
・自己表現する胆力
・常にロジカルシンキング
近藤さんの一番の強みは、飲食業界にとどまらず日本の現状をふまえた大局的知見にたってモノを見ることができる一方で、その理想の実現のためにはレストランの洗い場にも立てるというところだと思います。
大きなことを言う人は山ほどいますが、そのために日々小さなことをコツコツできる人はあまりいません。逆もしかりで、日々のコツコツはできても、最終的な着地を持っていない人も大勢います。
そこには大きなことを単なる絵空事にしないロジカルなものの考え方、そして大きなことを自分より経験も実績もある人に言うための胆力も必要になってきます。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「今はソムリエがその存在意義を問われている時代だと思っています。これまでの価値観に縛られることなく、自由な発想のもとで仕事の幅を増やし、会社勤めであればより多くの責任を背負える立場として活躍していってほしいです。仰々しい『ソムリエ』ではなく、新しい形の『ソムリエ』の未来を一緒に作っていきましょう。」
新体制となってますます進化を続けるレカングループ、是非行ってみてください。
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