10月 09, 2024
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、アカデミー・デュ・ヴァンの講師、ジャンシス・ロビンソンMWのJancisrobinson.com日本語訳公式サイトを運営するライター、ワイン専門通訳・翻訳者と三足の草鞋で活躍する、ヴィニクエスト代表小原陽子さんにお話をうかがいました。
転勤族のサラリーマン家系に生まれ、東京理科大学薬学部を卒業、製薬会社の研究員として職をえて、素敵な男性と結婚。
小原さんの人生は、傍から見ればワインを趣味にこそすれ、わざわざフリーランスになってまでワインの仕事をするようなチャレンジに身を置く必要のない人生に思えます。
実際、製薬会社勤めをしている頃は、ワイン好きの同期の開くワイン会に参加して、一愛好家としてワインに接するくらいのものだったそうです。
「もともとはワインなんて、蘊蓄を語りながらおじさんが飲む小難しいものだと思っていました。ですが、人数合わせでイヤイヤ参加したワイン会でレオヴィル・バルトンと出会い、その豊かでめくるめく変わる表情に感銘を受けて、それ以来ワインに興味を持つようになりました。ただ、あくまで一消費者としてです笑」
転機となったのは、結婚と引っ越しでした。引っ越しを機に製薬会社を辞めることとなります。当時は一度研究職を離れると再び戻るということが難しく、離職後のモラトリアム期間、暇に飽かせて挑戦したのがJSAのワインエキスパート資格だったそうです。
昔から記憶力には自信があるという小原さん、見事一発で合格。行きつけていたワインバーのオーナーとそんな話をしていると、ワインコンクールに出てみたら?と提案されます。
お祭り感覚でロワールワインコンクールへの参加を決め、筆記、ブラインドテイスティングとこなし、なんと優勝してしまいます。
さらに、せっかくならということで、くだんのワインバーが運営していたワインスクール井上塾の講師としてのキャリアをうっかりスタートさせてしまいます。
とはいえ、この頃、小原さんは化学メーカーの派遣社員としても働いておりました。
その職に行きついた経緯も非常にユニークで、きっかけは子どもの頃に読んだアルセーヌ・ルパンだったそうです。
ルパンが英語のアクセントで、その人の出身などを見抜く様に憧れ、英語をはじめとした言語に興味を持ち、英語を自身のスキルとして磨いてきた小原さん。もともと持っていた理系の知識と自分が好きな英語の両方を使って働ける場所を探して見つけたのが、この化学メーカーのポジションでした。
となれば、ワイン×英語という発想になるのも、さもありなんという感じでしょう。
当時はまだまだ認知度の低かったWSETに挑戦し、LEVEL3、さらにディプロマにも合格します。その資格勉強の過程で出会ったのが、冒頭でも紹介したジャンシス・ロビンソンが運営するJancisrobinson.comでした。
ロバート・パーカーが一線を退いた今、世界で最も有名なワインジャーナリストと言い切っても過言ではないジャンシスの記事で学びながら、「英語スキルの有無にかかわらず、ワインを学ぶ人はこの情報にアクセスできなきゃもったいない」という半ば使命感のような気持ちを抱くようなります。
迎えたWSETディプロマ授与式。ロンドンのギルドホールで煌びやかに開催されるこのイベントでは、ディプロマ合格者一人一人に証書が授与されます。
このときのプレゼンターこそジャンシス・ロビンソンその人でした。一方、小原さんは会場で唯一、着物での参加者。
絶対覚えてもらえたという手応えのもと、帰国後すぐにジャンシスに日本の読者に向けて翻訳することを許してほしい旨、熱い思いをしたためます。結果、ジャンシスから承諾の連絡を受け取り、見事公認のお墨付きを勝ち取ります。
ディプロマ資格の波及効果はそれだけではありません。ディプロマ資格を取得したことでアカデミー・デュ・ヴァンからもWSET講座の依頼を受けるようになり、講師としても新たな仕事を手にします。
さらにさらに、ちょうど日本ワインの情報発信を考えていた『日本ワイン紀行』もライターを探しており、ディプロマレベルのワイン知識と栽培や醸造などが理解できる理系の知識を持っている人ということで、こちらでも小原さんに白羽の矢が立ちます。
こうして2017年にワインを仕事にフリーランスとして独立を果します。
さて小原さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがった中で感じたのは、
・正しい方向を選ぶ力
・スキルのシナジー効果
・強い好奇心と行動力
ご本人は謙遜されますが、小原さんの行動は業界全体にとって、非常に貢献度の高いものばかりです。
ジャンシス・ロビンソンの記事翻訳は、小原さんが業界のためにという使命感を持って行ったことではありますが、お話をうかがっていると、基本的に「小原さんのやりたいこと=業界のためになること」という方程式が成り立っているように感じました。
だからこそ小原さんは楽しく仕事をしつつも、自然とまわりが協力してくれる体制ができあがり、色々な物事が実現していくのだろうと思わされます。
さらに、小原さんは自身のスキルセットをしっかり把握されており、その掛け算で自身の市場価値をより高めているのも象徴的です。
例えるのであれば、「英語力」、「理系バックグランド」、「ディプロマ資格」といった個々の部品を、うまく組み合わせることでマシンの性能を最大限引き上げ、持ち前の好奇心と行動力というガソリンでワイン業界を駆け回っているといったところでしょうか。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「ワインの業界だと、どうしても『ソムリエ』という存在が大きいですが、ライター、講師、通訳・翻訳者のような仕事からでも、ディプロマやマスター・オブ・ワインを目指すことはでき、業界で活躍できるということを知っていただきたいですね。世界的にはそのような働き方も一般的で、ガンガン表に出ていらっしゃる方も大勢います。」
「ただし、」と小原さんは注釈をつけます、
「製薬業界というワインと全く関係のない業界を見てきたからこそ思うのですが、ワイン業界一般として見ると、まだまだビジネススキルやマナーといった社会人のいろはを持ち合わせていない方が多いのも事実だと思います。メールの打ち方、時間厳守、報連相といった基本的なとこをしっかり学んでおかないと、信頼して仕事を任せてもらえるようにはならないので、その点はきっちりしておいた方がよいと思います。」
自身の好奇心にあわせて、回遊魚のようにワイン業界をめぐり、ご活躍される小原さんの今後を、小原さんの運営されるVinicuestを通じて、これからもご覧ください!
© 2025 @ THE WINE EXPERIENCE Co., Ltd.