6月 07, 2024
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、アンダーズ東京エグゼクティブソムリエ兼ビバレッジディレクターの森覚さんにお話をうかがいました。
森さんとワインの出会いは、TBS系列のドキュメンタリー番組『情熱大陸』でした。
小学生の頃から学校の先生に憧れ、高校ではサッカーでインターハイにも出場し、教師とプロサッカー選手という職業をこれまで天秤にかけてきた森さんにとって、これが新たな転機となります。
情熱大陸では、1998年の世界最優秀ソムリエコンクール ウィーン大会に出場する石田博氏の軌跡が紹介されていました。ソムリエという仕事のカッコよさ、いわばソムリエ界のW杯でもある世界最優秀ソムリエコンクールという舞台に感化された森さんは翌日にはソムリエ協会に電話をかけていました。
協会の方からソムリエとしてコンクールで結果を残したいのであれば、ホテルに勤めるのがいい、そして早くエキスパートを取得した方がよいと教わり、早速ワインエキスパート試験に挑みます。
とはいえ、情熱大陸が放送されたのは春の終わり。ワインスクールの対策講座もほとんど終盤という時期だったので、スクールには通わず、バイト先のホテルの先輩たちに混ざって独学で合格を勝ち取ります。
わずか半年足らずという短い期間。さらに言えば、森さんはソムリエを志すまでは、お酒にも弱く、ワインも飲むのが苦痛だったというから驚きです。
資格を取ったことで将来のキャリアへの覚悟も決まり、森さんの就職活動がスタートします。
時代は就職氷河期真っただ中、そんな逆境で森さんが自身に課した就職の条件は、
・ホテルのメインダイニングで働くこと
・3年以内にソムリエとして結果を残し辞めること
念のため改めて言っておきますが、この頃森さんは新卒です。そんなおこがましくもうつる条件を面接官に正々堂々伝えていきます。
結果、100社以上のホテルに応募し、1500名の応募者の中から5名という狭き門を突破の末、パークハイアット東京に入社を果たします。
当時のパークハイアット東京は先輩にもソムリエ資格を持っている人はいなかったそうですが、入社二年目には、若手ソムリエの登竜門コミ・ソムリエコンクール最優秀賞に輝きます。
有言実行となり、退職とあいなるところでしたが、ホテル側の厚意でそれまで存在しなかったソムリエポジションを設けるので、経験のない業務もやってみないかと打診を受け、婚礼用のワインの選定などそれまでしてこなかった業務の機会にも恵まれます。
社会人3年目の若手のために新しいポジションを用意するホテル側の懐も深ければ、その若さで勤め先にそこまでさせる森さんも底が知れません。
しかし優秀な人材は見つかってしまうもので、その後トゥールダルジャンの石田さんからお声がかかり、ソムリエをめざしたきっかけの人からの誘いということもあり、二つ返事で転職します。
トゥールダルジャン移籍後も様々なコンクールに出ては優勝をし、当時のほぼ全てのコンクールで優勝を飾ります。
しかし、ソムリエで日本一を名乗るには全日本最優秀ソムリエコンクールでの実績が欠かせません。
森さんは30歳までに全日本で優勝できなければソムリエを辞めるという縛りを自身に課して、見事2008年、自身30歳の年に優勝を果たします。
優勝後はパリのトゥールダルジャンでも経験を積み、アジア・オセアニア大会で優勝、世界大会ではセミファイナリストまで駒を進めます。
トゥールダルジャン在籍時に二度の世界大会を経験した森さんでしたが、フランス以外のワインやワイン以外のビバレッジに触れる機会を増やすべく、コンラッドホテルのシェフソムリエに舞台を移します。
コンラッドホテルでそれまで存在しなかったソムリエチームを構築し、ワインを販売していく体制づくりから始めます。人材の募集・選定からソムリエがホテルの中で有機的に機能できるような交通整理まで、システムを築いていきます。
ソムリエチームとしての役割を徐々に拡大させていき、気がつけば9年の月日が過ぎていきます。
育ててきたチームから次期シェフソムリエを任せるにたる存在が出てきたこともあり、森さんは新しいキャリアを模索するようになったと言います。
そうしてたどり着いたのが2023年に就任した、アンダーズ東京のエグゼクティブソムリエ兼ビバレッジディレクターというポジションでした。
「ソムリエとして常に現場にいないといけないと感じています。コンサルタント業務のようなこともできなくはないでしょうが、自分のかかわったことについて最後まで見届けたいという気持ちが強いんだと思いますね。」
勤め人という立場でありながら、唯一無二のポジションでご活躍されているそうです。
さて森さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがった中で感じたのは、
・能力に見合った確固たる自信
・競争/逆境を楽しめる精神性
・想像力と創造力
数ヵ月でのワイン資格の取得、倍率300倍の就職試験の突破、数々のコンクールでの優勝、外資系ホテルとのタフな交渉力。森さんが高い能力を持っているのは改めて言うまでもありません。
しかし、自身の能力をしっかり理解し、ときには自ら逆境をつくり出しながら楽しめる精神性と自信は能力の高い人が必ずしも持っているものとは限りません。
そして、新しい環境で新しい仕組みを生み出す、想像力と創造力の高さ。森さんのキャリアの秘訣はこんなところにあるのかもしません。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「ワインを好きでいてほしいですね。ワインを好きだからこそ、仕事を楽しめ、世界規模での人との出会いを楽しむことができます。」
ワインを好きになったことで、幼いころの教師の夢をワインスクール講師や山梨大学ソムリエ学科の講師という形で叶え、プロのサッカー選手として世界の舞台で戦うという夢をソムリエの世界大会という場で叶えた、森さんならではの言葉かもしれません。
現在はマスターソムリエにも挑戦している森さんの今後、ワイン業界にいるのであればチェック必須です!
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