12月 17, 2023
世界的にカベルネ・フランの注目度が高まってきている昨今、ワインプラスでは世界的なカベルネ・フランの銘醸地シノンのワインメーカージャン・モーリス・ラフォー(Jean Maurice Raffault)から現当主兼醸造長であるロドルフ・ラフォー氏のマスタークラスを開催致しました。
ワイナリーに行けば、7時間でも8時間でも話し続けるという現醸造長ロドルフさんにとって90分という時間は決して長くありません。畑違いのカベルネ・フラン巡り1本勝負スタートです。
まずは、ジャン・モーリス・ラフォーの紹介から始まります。
ロドルフさんで14代目になる、ラフォー家とワインの繋がりは遡ること4世紀以上。1693年の文献で既にブドウ畑を持っていた記録が残っているとのこと。
街のシンボルであるシノンの要塞の足元にブドウ畑も所有し、シノン全体で44ヘクタールもの畑を所有しているのは、そんな長い歴史があればこそなのでしょう。
ワイン造りをスタートしたのはおじいさんの代から。当時は瓶詰しての販売は必ずしも一般的ではなく樽売りを主としており、ドメーヌ・ジャン・モーリス・ラフォーの誕生はお父さんの代になってからです。
ロワール川とヴィエンヌ川の中洲に位置するこの地域は、昔は海の底にあったということで、貝殻等の化石由来の石灰質土壌が主で、川沿い部分は砂礫質土壌とのこと。
サンテミリオンのような土壌とブルゴーニュのような区画ごとに適したワイン造り、それこそがこの地域の魅力だそうです。
当日のワインリストは下記の通り
2021 Chinon Rouge Les Galuches/シノン・ルージュ レ・ガリューシュ
2020 Chinon Rouge Clos d’Isore/シノン・ルージュ クロ・ディゾレ
2021 Chinon Rouge Le Puy/シノン・ルージュ ル・ピュイ
2019 Chinon Clos de l’Hospice/シノン クロ・デ・ロスピス
2016 Chinon Clos de l’Hospice/シノン クロ・デ・ロスピス
川沿いの砂礫質土壌では、より軽やかな味わいに仕上がり、石灰質土壌ではより力強い味わいに仕上がるということです。
最初の一杯目の「レ・ガリューシュ」はフランス語で小石を意味するように、ロワール川から500mほどしか離れていない砂礫質の区画で造られたワイン。
「パリの多くのブラッスリーで生ハムなんかと一緒に楽しんでもらっている」という言葉通り、ほどよい酸とアロマティックな香りでスイスイ進んでしまう一杯です。
対する、二杯目のクロ・ディゾレは石灰質土壌のもの。
「クロ」とは、石垣に囲まれた区画のことを意味し、多くの場合古く歴史のある畑だそうです。ブドウ樹は1938年に植樹されており、深く根を張った古樹は地表の影響を受けづらく、近年の異常気象からブドウを守ってくれるそう。
先の説明通り、一杯目と比べると骨格がしっかりとしており、ソースを使った牛肉などもう少し重めの料理が欲しくなる味わいです。
二杯目を飲み終えると、閑話休題的に、この地方のワインカーヴのお話に。
シノン、トゥーレーヌの生産者は、もともと石切り場だった場所に、年間を通じて温度13度、湿度90%程に保たれる自然の地下カーヴを持っているそう。地下カーヴというだけあり、カーヴの真上にブドウ畑があったりするので驚きです。
三杯目は、ル・ピュイは先ほどのクロ・ディゾレとは2㎞ほどしか離れていない区画ですが、斜面の向きが異なり、石灰質の質も少し異なります。
個人的に大好きだったのが、このワイン。2021年という比較的冷涼なヴィンテージらしい酸味としっかりとしたストラクチャー、そして伸びのある余韻が印象的でした。
最後二杯は、クロ・ド・ロスピスという同区画のヴィンテージ違い。2016年はロドルフさんが今回のセミナーのためにフランスから手持ちしてくれたとのこと(感謝です)!
「ロスピス」とはフランス語で病院を意味し、1626年の文献にも出てくるラフォー家よりも歴史ある区画。修道院だった場所がフランス革命を機に病院となりましたが、古くから修道女たちによってブドウ畑が管理されていたそうです。
もっともフィロキセラによって、ブドウ畑は一度全滅してしまいますが、2007年にラフォー家が、この歴史ある地の復興を願いブドウ樹を植樹したとのこと。
1ヘクタールしかない小さな区画ということもあり、ジャン・モーリス・ラフォーとしては唯一の亜硫酸無添加に取り組んでいるのもこの区画。
2019年と2016年の比較試飲でしたが、2016年のフレッシュさには驚かされます。
試飲後もロドルフさんのお話は続きます。
カベルネ・フランは温暖化の影響もあり、一昔前まで言われていたピーマンのような青いベジタブルな香りが出なくなっており、ボルドーでもメルローからカベルネ・フランへの植替えが起きているとのこと。
ジャーナリストをはじめ世界的な注目度も高まってきているため、カベルネ・フラン100%という、世界的にも珍しいシノンなどの地域は今後もますます人気な産地になっていくでしょう。
一方で、温暖化を見据えた動きの一環として、シラーの植樹も考えているというロドルフさん。
伝統と革新ってこういうことなのだろうなと一人しみじみしてしました。
見た目は少し強面ですが、話し出すととたんにチャーミングな人柄が出るロドルフさんによるマスタークラス、しっかり勉強させていただきました!
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