10月 23, 2023
オーストラリア、メルボルンから生産者が来日してイベントをするらしい。
それ自体は、よくある話。しかし、ノンアルコールとなれば話は別だ。
ノンアルコールのマスタークラスと聞いての率直な感想は、「何を話すんだ?」というものである。
歴史や背景の深いお酒ならわかる。テロワール、醸造、ブドウ、剪定、熟成などなど話すことに事欠かない。
しかしノンアルコール、しかもセミナー時間はたっぷり1時間半取られている。
そんなワインオルタナティブNONという未知との遭遇について、今回はご紹介させていただきます。
メディアと飲食店関係者向けに行われた本セミナーは、意外にも十分な人の入りで、昨今のノンアルコールへの注目度の高さがうかがえます。
説明をしてくれるのは、NONより創業者のAaron Trotman/アーロン・トロットマンと製造責任者のNick Cozens/ニック・コーゼンのお二人。
話はNONの草創期の話からだ。ここでワインであれば、100年前くらいまでさかのぼることはよくあることですが、NONの創業は2019年。ほんの4年前。
きっかけはお酒の飲めない奥さんと世界中のレストランを一緒に回っていた時でした。そこでノンアルコールペアリングに出会い、せっかく料理とのマリアージュを企図して造られたドリンクがお店でしか飲めないことに気づき、フードペアリングできるボトリングノンアルコールドリンクの可能性に行きついたと語ります。
となると、ワインのような味わいをということになるのかと思いきや、
「わたしたちはワインの味わいを複製しようとしているわけではありません。もちろん、ワインのもつアタックからミッドパレット、余韻といった流れや、ワインが作り出すフレーバー、タンニン、酸味のバランスといったものは目指している部分ではあります。
またワインへのリスペクトがあるからこそ、できたワインからアルコールを抜いてという従来型の『ノンアルコールワイン』の製法も取るつもりはありません。」
ワイン用のブドウ果汁から造られるヴェルジュ(未熟なブドウを収穫して圧搾した酸度の高いブドウ果汁)をベースに、ハーブやスパイス、フルーツから要素を抽出することでフレーバーを作っていく、ワイン・ノンアルコールワインに割って入る第三極がワインオルタナティブということです。
スタートは150リットルの小さなタンクだったそうですが、この4年で規模は数十倍に跳ね上がり、今では世界で唯一のセラードアを持つノンアルコール製造所とのことです。
「図書館に行っても参考文献なんかない」という言葉の通り、参考にするものがない以上、自分たちで多くの失敗を経験しながら進んでいくしか道はなかったといいます。
製造工程は、原料ごとに下準備して温度や時間を微妙に変えながら浸漬、抽出するというもので、多くのボタニカルを使用するNONを考えれば、完成品に行きつくまでの試行錯誤の苦労は計り知れません。
成り立ちからして、フードペアリングというのにフォーカスを当てていることは明らかですが、当日はペアリング用のフィンガーフードの用意もあり、こちらも美味でした。
No.1ソルティッドラズベリー&カモミール × 自家製ハム
No.3トースティッドシナモン&ユズ × 帆立のミキュイ
No.5レモンマーマレード&ハイビスカス × 黒米と野菜のタルトレット クミンの香り
No.7シチュードチェリー&コーヒー × キノコと鶏のガランティーヌ
特にNo.5とタルトレットは、No.5のリコリスの由来のスパイシーな香りとクミンのニュアンスが見事にマッチしていました。
参加者からの質問などもあり、気がつけば1時間半はあっという間に過ぎてしまっていました。
終了後もアーロンやニックからできるから色々な話を聞き出そうとする参加者もいるほど熱を帯びたセミナーで、みんなノンアルコールの新しい地平を見ることができたのではないかと思います。
NONというワインともノンアルコールワインとも異なるワインオルタナティブという第三極との出会いは、まさに「未知との遭遇」(”Close Encounters of the Third Kind(第三種接近遭遇)”)でした。
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