9月 25, 2023
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、自転車ラベルでお馴染みの「コノスル」を日本に広め、今は新たにチリワインMOVIを日本に発信していくアークセラーズ株式会社の佐藤正樹さんにお話をうかがいました。
「コノスル」を知らずにワインの仕事をすることは、ほぼ不可能ではないでしょうか?
そんな今やスーパー、居酒屋、酒屋、どこに行っても目にするコノスルですが、今回の話はコノスルがまだ知る人ぞ知るワインだった2000年代初頭までさかのぼります。
当時大学生だった佐藤さんがお酒に興味を持つのは、学生時代に友人の親戚づてにドイツへの海外旅行の時でした。自転車を使ってモーゼル河やライン河をまわりながら、自然とワインを飲むようになっていったと言います。
帰国後は地元の輸入ビールを多く扱う酒屋でバイトを始め、さらに紹介でワインサロンの手伝いもするようになります。
グラス拭きなど雑用をする代わりに、ワインサロンで開かれるセミナーに参加させてもらい、お金がないながらもワインの勉強に努めました。
さらにさらに、ワインサロンで教えてもらったのが、映画『ウスケボーイズ』でも有名な「現代日本ワインの父」こと麻井宇介さんでした。
麻井さんの話を聞く中で、ワインに対する深い洞察と真摯な姿勢、熱い情熱に感化され、佐藤さんは次第にワインを仕事にしようと決意を固めます。
在学中にワインエキスパートを取得し、2003年にはコノスルを扱うスマイルに入社します。
酒屋でのバイトでもちろんコノスルを知ってはいた佐藤さんですが、入社からすぐにコノスルの担当に抜擢されます。
基本的な貿易業務から、メーカーとの窓口業務、来日の際には通訳業務と、一気にコノスルと密な関係を築いていきます。
先述のように佐藤さんが入社した2003年当初は、今日のような状況ではなかったコノスルですが、そこからの時代のつかみ方は抜群にうまかったと述懐します。
「ちょうどわたしの入社した2003年に、酒販免許の緩和がなされ、スーパーやコンビニでもお酒を売れるようになりました。さらに、当時はネットショップも次第に盛り上がっていくといった状況で、当時まだ注目されていなかったピノ・ノワールやオーガニックワインへの先駆け的な取り組み、一般家庭に受け入れられやすいスクリューキャップの導入など話題に事欠かなかったコノスルは、自転車マークのわかりやすいアイキャッチとストーリーも相まって、どんどん成長していきました。」
その値段では考えられない高い品質が、雑誌などで取り上げられて、雑誌での高評価をもとにネットショップで販売され、スーパーやコンビニなどのマス市場でも販売が決まっていくという好循環があったと語ります。
気がつけば、コノスルの販売数量も佐藤さんが入社した当時から10倍近く跳ね上がり、ワインの国別輸入数量では、不動の一位だったフランスはチリにその座を明け渡すことになります(2021年からはフランスが1位に返り咲く)。
さらに佐藤さんは個人としても、2007年には第7回全日本ワインアドバイザー大会に初出場し、ファイナリストまで勝ち上がります。
そうして、2015年に佐藤さんは、企業人としてもワイン人としても、ひとまず自分が今やれることはやり切ったと、次の活躍の場所を探します。
数を売っていくことが重要だったコノスルの主戦場は、当然量販店。なので、新しい挑戦の舞台は対極にあるファインワインの世界へ、そしてそれを叶えることができる、ベリー・ブラザーズ&ラッド(以下BB&R)へ転職を決めます。
当時のBB&Rは、世界中に400人もいないマスターオブワインを10人近くも抱える、まさにファインワインのエキスパート集団でした。
ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュはもちろんのこと、ニューワールドなどのファインワインの世界で経験を積んでいきます。
BB&Rでの経験も3年が過ぎた2018年。それは社会人となり、営業の仕事をはじめて15年の月日が経過した頃でもありました。
もともと15年くらい営業で経験を積んだら、自分で会社をと考えていた佐藤さんは起業という選択に思いを馳せます。
しかしワインのインポーターという仕事柄、先立つものがないことには何も始められません。
そんなときにお会いしたのが、スマイルの現社長。自分の思い、したいことを説明し、社内起業という形で、2021年アークセラーズを起ち上げるに至ります。
アークセラーズでは、コノスルなどチリの大手生産者(チリでは上位10社が全体生産量の7~8割を占める)の対極に存在する、小規模醸造家組合MOVIのワインなどをはじめ、カジュアルワインとファインワインの双方を見てきた佐藤さんだからこそできるセレクトを行っています。
さて佐藤さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがっていく中で感じたのは、
・挑戦し続けるバイタリティー
・業界の中での豊かな人脈
・ワインに対するビジネス視点
新卒からいきなりのビックアカウントの担当、選手権への出場、安泰な地位からの転職、そして起業。常に挑戦を止めない貪欲な姿勢を推進力とし、大学時代からの人と繋がる力が佐藤さんに進むべき道を示してくれているように感じました。
「常にビジネスマンでありたい。」そう語る佐藤さんですが、今は先ほども登場したチリの小規模高品質ワインを手掛ける醸造家団体MOVIのワインを広めることに尽力されているそうです。
チリワインの大看板ともいうべきコノスルを取扱い、のちにファインワインの世界を見てきた佐藤さんが「今」力を入れるMOVIのワインを楽しみながら、ワインビジネスに思いを馳せてみてはいかがでしょうか?
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