5月 22, 2023
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、1998年創刊のワインを中心とした豊かな生活を提案する”Winart”編集長を務める小松由加子さんにお話をうかがいました。
「昔から衣食住にかかわる仕事がしたかったんです。」
新聞に挟まっている不動産広告から、テレビで紹介されるレストラン、衣食住にかかわるものであれば、若き日の小松さんには魅力的に映ったと語ります。
そんな小松さんの社会人キャリアの一歩目は不動産会社。
新規物件ごとにチームを組んで、モデルルームへの来訪者を中心に、物件に合った顧客に売り込んでいくという仕事は、一つのことに打ち込むより色々なことをやりたいという小松さんの肌に合っていました。
そんな仕事の傍ら、休日に邁進していたのが衣食住の「食」の領域。
お菓子の専門学校の通信教育課程をはじめ、シュガークラフト、アカデミー・デュ・ヴァンでのワインの勉強と休日の自己研鑽は多岐に及びます。
そして4年勤めた不動産会社を退職、その後、ル・コルドン・ブルー東京校に通い菓子ディプロムを取得し、ますます食への関心が高まっていたときに出会ったのが、ワイナートのアシスタントアルバイトの募集でした。
ル・コルドン・ブルーの同期が、お菓子の業界誌を出版する会社に就職をきめたこともあり、食×出版というのは当時の小松さんにとって非常に新しい可能性を感じさせてくれるものでした。
ワイナートの創刊は1998年12月、小松さんの入社は1999年6月。
ワイナートでいくと4号(*2023年4月号が112号)から小松さんは草創期のワイナートに飛び込むことになります。
当時のワイナートは、アート系の出版物を扱う美術出版社が手がける初のワイン専門誌として誕生し、主筆にワイン界の大御所田中克幸さんこそいるものの、他の編集スタッフはワインについての専門知識はほとんどないような状態。
バイトの小松さんは専ら編集アシスタントとして試飲コメントの整理をしたり、試飲会に参加したり、ワインのラベルを剥がしたり(ラベルデータのない時代の重要なお仕事です)という日々を送ります。
採用時は「正社員登用無し」という条件でしたが、3年も在籍すると当然正社員への意欲も出てきます。そこからさらに3年正社員登用の交渉などもしながら過ごしますが、会社は一向に首を縦に振ってくれません。
6年やっても正社員になれないのならと退職を考え始めた頃、ワイナートはそれまでの年4回の出版から年6回の出版に舵を切ります。
不思議なもので、求めれば機会は遠のき、諦めると機会は降ってくるもので、出版拡大にともない小松さんは正社員として編集者の地位をゲットします。
編集者の仕事とは雑誌におけるプロデューサー的立ち位置です。
記事の企画を考え、必要に応じてカメラマンやライターさんを手配し、現場では陣頭指揮を執る。
編集者の仕事は、6年間のワイナート編集部の仕事で知っているつもりでしたが、見るとやるとはでは勝手がちがい、最初の企画記事は手痛い思い出だと語ります。
「写真を縦で撮るか、横で撮るか、そんな基本的なところでフリーズしちゃって、フリーズしている間に撮影用の葉物はシナシナになってしまって…。」
しかし、実際に経験し、自分で考えて動けるようになってくると、これまでのワイナートでの仕事をはじめ、今までの経験が随所に活きてくるのを感じたそうです。
ちょうど社内人事異動などもあり、気づけば社員登用3年目にして編集長にのし上がります。
1999年にワイナート編集部に入り、2005年に契約社員として編集者となり、その後、正社員登用を経て2008年に編集長となった小松さんですが、その過程では、Googleの登場、携帯電話の普及、各種ソーシャルメディアの隆盛、スマートフォンの登場、と雑誌という紙媒体にとっては必ずしもいい時代とは言えません。
「昔はワインの業界紙はありましたが、一般のワイン好きでも手に取れるような専門誌は多くありませんでした。いい時代もありましたが、ウェブやSNSの登場で単なる情報媒体としての紙メディアは難しい状況にあります。
ですが、ワイナートとしても時代の波に呑まれ埋もれないための施策は行っており、誌面とリアルを繋ぐ読者イベントの企画などはその一つです。さらに、単なる情報媒体を超えた世界観を共有してもらえる体験価値の提供も、紙媒体ならではの可能性だと信じています。」
さて小松さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがった中で感じたのは、
・ぶれない自分を知っておくこと
・新しい物事へ飛び込む勇気
・機会をとらえる忍耐力
業種においては、衣食住という領域をキャリア形成の最初期に決めて、以降もぶれずにその業種のみを考えています。さらに職種においても、料理人などの方向にはいかず(専門学校に通ってはいたものの)自分の能力を活かせる分野を見出しています。
その中で新しいものに飛び込み多彩な経験を持つことで、その業種においては特異なポジションを築いています。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「伝えたいことは、やってみて無駄なことは何もない、ということです。アカデミー・デュ・ヴァンにル・コルドン・ブルー、シュガークラフト、専門学校の通信と、多々経験したわたしが言うので間違いないです(笑)。興味が持てる新しいことに果敢に取り組めば、自身の視野も、人との繋がりも広がっていきます。
多くの経験を積んで本質的な理解をしていけば、見る人が見れば気づいてくれる『違い』を生むことができるんだと思います。」
時代の流れに呑まれてしまいそうな、雑誌という紙メディアに長く関わっている小松さんが、誌面を通じて多くの人にワインの楽しさを知ってもらいたいと思う、そんなワクワクする世界の詰まったワイナートをぜひ覗いてみてください。
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