12月 25, 2024
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、未来の日本のワイン業界を担うであろう若手最有望株にして2025年からコペンハーゲンのAlchemistでソムリエとして活躍する中村僚我さんにお話をうかがいました。
高校まではサッカーに打ち込んでいたという、どこかのスーパースターソムリエを彷彿とさせるバックグラウンドを持つ中村さん。
大学からはサッカーを離れ、ほのかな憧れをもっていた海外とつながる仕事をするべく、英語やフランス語といった語学の勉強に打ち込みます。
いつか海外に行きたいと思っていた中村さんにとっての転機となったのが、文部科学省が展開していた「トビタテ!留学JAPAN」プログラムでした。
*「トビタテ!留学JAPAN」とは、高校生や大学生を対象とした官民協働で行う留学促進プログラムであり、返済不要の奨学金や様々な留学支援が得られる。
当時フランスに行きたかった中村さんは、倍率4倍とも言われる本プログラムを通過するために、旅程を立てなければなりませんでした。
説得力があり、時節をとらえた企画がなにかないものかと考えていた時、ふと以前に読んだ「日本酒がフランスで人気を博している」という記事を思い出します。直感的に「これだ!」と思い、住んでいた愛知県をはじめ、東海地方の酒蔵に「フランスで日本酒の試飲会を開催しないか?」と尋ね回ります。
志高い大学生の企画に自社商品数本で協力できるなら安いものと思ってもらえたのか、結果10を超える酒蔵から賛同と協賛を勝ち取ります。
協力いただいた酒蔵を入り口にフランスで日本酒の普及を行う。そのために、まずは小規模な試飲会を実施し、簡単な市場調査を行ったのち、外務省主催の「ジャポニスム2018」の出展を目指す。
というのが、中村さんが留学プログラム選考を通過するために思い描いた計画の骨子でした。
もちろん、選考には通過し、渡仏が決まります。留学先に選んだのは、大学の姉妹校でもあったブルターニュのレンヌ第二学校。
試飲会の会場の伝手も集客の方法もわからないような状況でしたが、レンヌの先生の助力もあり、渡仏2ヵ月目には試飲会は開催することができました。
しかし、「ジャポニスム2018」の方は当時の外務省の悲願のイベントということもあり、新規飛び込みの門戸は開かれておらず、諦めざるを得ませんでした。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。新たな出会いにつながります。
その出会いこそが、フランスで行うフランス人のための和酒のコンクール” Kura Master(クラマスター)”でした。中村さんの思いが伝わり、インターンとして働かせてもらえることとなります。
時は移って、半年後。Kura Master のコンクールで、中村さんは初めて「ソムリエ」を目にすることになります。後にフランス最優秀ソムリエにも選出される、グザビエ・チュイザのテイスティングを見て、中村さんの中に「自分もいつかは評価する側に回りたい」という思いが芽生えます。
さらに時を同じくして、全日本ソムリエコンクールで優勝した岩田渉ソムリエがアジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクールで優勝したことなども相まって、サッカーを通じて育んできた競争心が目を覚まします。
「世界一のソムリエになろう」
「世界一」となるために準備が始まります。
帰国後、残り一年の大学生活は、フランスで知り合った日本酒「醸し人九平治」、クラシックフレンチ” Le Restaurant Shinji Koga”、渡仏前からお世話になっているバーの三か所で、朝は酒造りをして、夜はサービスをして、深夜はバーに立ちます。
その合間をぬって、借金をしてでも美味しいものを食べに歩き、経験値を稼ぎます。
それだけではありません。2019年にはソムリエ資格も取得し、初のソムリエスカラシップで決勝まで勝ち上がります。
2020年に大学を卒業すると、コンクールで必要になる醸造や栽培の知識を先にインプットしようと、あえてレストランへは行かずに、モンペリエの大学院L'Institut Agro Montpellierに進学を決めます。
ワイナリーの子息女をはじめ、世界20カ国から25名が集まるクラスで唯一の日本人として寮生活をしながら、ブドウの遺伝子工学、植物疫学、ワイン醸造学などワインを「学術」として学んでいきます。
帰国後は、三ツ星フレンチ、「ロオジエ」で研鑽を積み、20代にしてアシスタントヘッドソムリエまで上りつめます。
2025年からは、世界最優秀ソムリエコンクール常連のNina Jensenのを輩出したコペンハーゲンのAlchemistにソムリエとして仲間入りします。
さて中村さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがった中で感じたのは
・ドライな思考とウェットな人間力
・目標のための明確な想像力
・小さな世界
中村さんの強みは、目標に到達している自分を明確に想像して、そこから逆算して思考して行動する思考力と行動力、そして行動を実現に移すための人間力だと思います。
19~20世紀に活躍したケンブリッジ大学教授アルフレッド・マーシャルが形容した” Cool Head but Warm Heart”( 冷静な頭脳と温かい心)を持ち合わせているという印象です。
いくら賢く、行動的であっても、人間力がなければ、どこかでそっぽを向かれ、進むものも進まなくなります。やはり、人間力あっての思考力・行動力なのでしょう。
そして、中村さんと話していると、「せ~かいはせ~まい♪」ではないですが、良い意味で世界は狭くなったんだなと思わされます。
必要であれば、フランスの大学院に行き、ベルギーのレストランで働き、世界一を目指すだけあって、すでに世界を舞台に「生きている」と感じずにはいられません。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「わたしにとっての目下のゴールであり、幸せは世界最優秀ソムリエコンクールで優勝して世界一になることですが、それがソムリエとして絶対的な幸せというわけでもありません。ひとつのことにしっかり向きあえば、個々人なりの『幸せ』や『好き』が見つかるはずですので、それを見つけて大切にしていただきたいです。」
2027年の全日本最優秀ソムリエコンクールから始まる、ソムリエ界のワールドカップで世界一を目指す中村さんの今後をお楽しみに!
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