5月 22, 2023
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、ワインジャーナリストにしてワインレポートの代表を務める山本昭彦さんにお話をうかがいました。
上智大学を卒業した山本さんは読売新聞に入社し、ジャーナリストとしての道を歩み始めます。
在学中から洋楽に精通していたこともあり、入社後ほどなくして志望通り芸能部で音楽を担当することに。長らく、ロックやポップスを担当しますが、1990年代半ばになると、世の中で広がりを見せるインターネットにそなえることを目的として創設されたメディア局に異動します。
そうして、メディア向けコンテンツのひとつとして2000年代に入って立ち上げたのが、ヨミウリ・オンラインのワイン欄でした。
そもそもの山本さんとワインの出会いの場は、90年代前半に訪れた老舗フレンチレストラン、トゥールダルジャンでした。初めてワインの美味しさに触れ、その後日本でワインが購入しやすくなると、ワインと真面目に向き合うようになっていきます。
「終わりのないワインの世界に強く惹かれていった。」
山本さんはそのように述懐しますが、ワインへの思いと山本さんのジャーナリストとしての矜持が高じ、山本さんは徐々にワインに傾倒していきます。
ワイン産地や生産者を訪問するのはもちろんのこと、海外に行くたびに書籍を買い込んで、知識を深めていったそうです。
とはいえ、一口に生産者を訪問すると言っても、ウェブなど未発達の時代、FAXでアポイントを取り付けていたというから驚きです。
そのようにワインと音楽で高い専門性を持ちながらの読売新聞勤めも30年が経った頃、当時出向していたBS日テレの部長としての職を辞し、独立することを決めます。
正確には退職の少し前から、無料コンテンツとしてのブログはスタートしていたそうですが、独立を機に記事の有料コンテンツ化を図り、事業化を進めていきます。
ワイン専門メディアも90年代から登場してきていたので、自社メディア以外にも専門誌への寄稿やワインレポート会員向けのセミナー、生産者ツアーの実施なども行いながら、産地取材のコストをまかなっています。
今では会員数は数千人規模になり、月間数十万PVを誇る、ワイン専門メディアとしては巨大なサイトに成長しています。
草創期は、大橋健一MW(Master of Wine)や大越基裕ソムリエらとコラボレーションしてサイト運営をしていたそうですが、現在では山本さんのワンオペ体制という状況です。
「ワインについての深い見識と、世界的な動向を追うスピード感、そして文章にして伝えることができる能力がある人がいれば、ぜひ手伝ってもらいたいですよ。」
ただ、と山本さんは続けます。
「海外にどんどん出ていく行動力は絶対に必要になってきます。たしかに日本にいても、入れ替わり立ち替わり来日する生産者から色んな話を聞くことはできますが、与えられる情報だけで満足していてはいけません。本当の意味で価値ある情報は自ら取りに行かないと手にすることはできないものです。」
足しげく現地に通い生産者と会話をかわすことで、顔も通るようになり、真に深い理解ができるようになるとおっしゃいます。
ワインレポートをふくめ、山本さんの今後の展開についてうかがうと、とにかく時間との闘いだと。
「書きたい内容の書籍もありますが、取れる時間も限られていますからね。ですが、モノを書くことにより特化していきたいという気持ちはあります。」
毎年、シャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュには訪れ、さらに年によって世界中のワイン産地を巡る山本さんのバイタリティをもってしても、「時間こそ最もユニークで乏しい資源」ということなのでしょう。
さて山本さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがった中で感じたのは、
・知への探求心
・将来を想像し創造する力
・圧倒的なバイタリティ
ジャーナリストとしての矜持がそうさせるのかもしれませんが、山本さんの一番の強みは知への探求心でしょう。普通の人であれば、少し美味しいワインに出会ったからといって、強い目的意識をもって現地を見に行こうとはならないはずです。
ワインについての記事を書く前から、探すのすら困難なFAX番号を見つけ出し、アポイントを取り付け、自腹を切って現地を見に行く、なんてことは仕事でもないとなかなかかけられない労力です。
知りたいと思ったモノの一次情報にあたって、見識を深めるという姿勢は山本さん一流のジャーナリズムに違いありません。
また、読売新聞という大企業に勤めながら、将来的な自分の姿を想像し、あるべき/ありたい姿(お金をとれる記事を書いていく)を創造していくというのは一筋縄ではいきません。
そして、それを可能にする圧倒的なバイタリティ。こうしたものが今の山本さんを築いているのかもしれません。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「ソムリエについて話せば、業界でのキャリアパスとしては、
1.コンクールで結果を残す
2.マスターソムリエなどの資格を取得する
3.大きな企業の中でのし上がっていく
といったことが考えられます。自分の立場に合わせて、そのような明確な目標を設定すること。
さらに、できればその目標がグローバルなものであるとなおよいです。ワインは国境を超える飲み物ですので、それを扱うみなさんも伝統国に固執せずグローバルな視点で魅力を伝えていただけると、さらに消費が広がるように思えます。
そうして目標に向けて邁進し、自分にしかない得手を身に着けることができればおのずと道は拓かれていくのはないでしょうか?」
これを読んでいるみなさんが将来ワインレポートで取材される姿を思い浮かべながら、ワイン業界でのキャリアパスについて考えていただければ、『THEワインキャリア』としても幸甚です。
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