5月 01, 2023
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、1000本のワインから始まった、南アフリカCage Wineのワインメーカー佐藤圭史さんにお話をうかがいました。
今やその土地の気候風土を象徴するワインを造るべく、良いブドウを追い求める佐藤さんですが、若かりし頃はボールを追いかけるサッカー少年でした。
選手としてではなく、スポーツメディカルという立場からサッカーに関わろうと思い立ち、オレゴン大学に進学します。とはいえ、この時の英語力は”HELLO”程度のものだったというから肝が据わっています。
結局、紆余曲折をへて、スポーツメディカルではなく、ジャーナリズム学部を卒業することになりますが、佐藤さんのワインとの出会いはこの頃でした。
大学から車で30分行けばワイン産地につき、1時間行けばオレゴンを代表するウィラメットヴァレーに行けたということで、お酒を飲みに行く感覚で、週末はワイナリー巡りをしていたそうです。
5年間におよぶ在米生活をそんな環境で過ごしていたこともあり、帰国後しばらくすると、
「日本って美味しいワイン飲めるところが全然ないな。」
そのように感じ、佐藤さんは本格的にワインの世界に足を踏み入れることとなります。
佐藤さんが飲食の世界に飛び込んだのは、20代後半。
決して早いスタートとは言えませんが、2年後の独立という目標を掲げ、割烹、イタリアン,ビストロなど様々な業態でがむしゃらに働き、ノウハウを得ます。
2009年にはオレゴンワイン専門店「Soyokaze」をオープンします。
初年度こそ火の車だったそうですが、2年目、3年目と着実に軌道に乗っていきます。
一方で、佐藤さんには一つの転機が訪れます。
「大阪のCONEXTION(コネクション)というワインバーの代表藤次さんとの出会いは一つのターニングポイントでした。藤次さんに出会って、自分がいかにワインのことをわかっていないか痛感することができました。」
なにより自分のお客さんに対して、このままの自分では申し訳が立たないという思いから、ワインとより真摯で、真剣みのある向き合い方をするようになったと語ります。
当然、オレゴンワインという分野ではスペシャリストとしての知識や経験はあったものの、オレゴンで造られるピノノワールやシャルドネを客観的に評価しようとすれば、当然様々な地域の知識や経験が求められます。
藤次さんとの出会い以来ワインを学びなおしますが、知れば知るほど自分の知識やスキルの限界を感じた佐藤さんは一度お店を閉めて、再出発することに決めます。
再出発にあたり、自分の目で世界を見て、知見を深めることに決めます。
お店を閉めた2016年に、早速ギリシア、クロアチア、スイス、イタリア、フランス、ドイツ、ロンドン、南アフリカと産地を巡っていきます。
そうして旅の終わり、南アフリカで佐藤さんに二度目の転機が訪れます。
「A.Aバーデンホーストワイナリーに訪れたときでした。対応してくれた当主アディ・バーデンホーストに、『何しに来たんだ?』と問われたので、ダメもとで『ワインを造りに』と答えました。すると『じゃあここで造れ!』と。それで決まりました。」
改めて、出会いはどこにあるのかわからないものです。
誤解のないように一言付け加えておくと、A.Aバーデンホーストワイナリーは決して人手に困るような場所ではなく、毎年100名くらいの応募が来る人気ワイナリーです。
一目見て、佐藤さんの人柄や相性を感じ取ったのでしょう。
A.Aバーデンホーストワイナリーで働くうえでの佐藤さんとアディの取り決めは、佐藤さんがワイナリーで働くかわりに、アディさんはワイン1000本分の葡萄が収穫可能な区画を佐藤さんに貸し与えるというものでした。
そうして、佐藤さんは2016年に渋谷の自身の飲食店を閉め、2017年には南アフリカ、スワートランドで自身の名を冠したCage Wineのファーストヴィンテージを造ることとなります。
最初の3年間は、アディさんから貸してもらった区画で1000本のワインを造るところからスタートし、2020年には2500本、2021年には8000本、2022年には1万本、今年は1.5万本(予定)ほどの生産量となるということです。
さて佐藤さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがった中で感じたのは、
・圧倒的な行動力
・出会いをモノにする力
・将来的なビジョン
佐藤さんの中で特筆すべきは、やはり行動力でしょう。ほとんど英語ができない中、アメリカの大学に進学してみたり、飲食の世界に入って2年で独立してみたり、自分のお店を閉めた半年後には南アフリカでワインを造ってみたり。
自分の将来像を持ち、それに向かってとりあえず動き、必要なことは全部やっていく。その中で、一つ一つの人との出会いをしっかりものにすることで今を築いてきているように感じました。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「20年後の自分の将来像を念頭において、たくさんの幅のある経験をして、自分を作っていってほしいです。経験していく中で色々な失敗もあると思いますが、反省すべきことを反省したら、引きずることなく次に進み、常にポジティブにいれば、おのずと自分が求めていた方向に進んでいけます。」
今は、南半球だけでなく、北半球でもワイン造りに携わる準備を進めているという佐藤さんですが、目下の目標は50歳までに自分の畑を待ちたいそうです。
人気でなかなか手に入らないCage Wineですが、ぜひみなさんも一度飲んでみてください。
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