4月 20, 2023
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、神宮前と自由ヶ丘に二店舗のワインショップを持ち、小売り/卸売り/輸入と幅広く活躍される中尾有さんにお話をうかがいました。
中尾さんが最初にワインに触れたのは、慶応義塾大学で考古学を学んでいるときでした。
古い世界をひも解く中でたびたび出てくるワインという存在に興味を持ち、在学中に恵比寿のワインバーでバイトを始めます。
次第にワインという液体そのものに魅力を感じるようになり、ワインを扱う仕事をすべく就職活動を進めていきます。
縁があったのは当時大きな成長を遂げていた高級スーパーの成城石井。社長が大学OBで直々に誘ってもらう機会に恵まれたこと、ワインを手売りできる環境にあったことなどが決め手になったと語ります。
成城石井では最終的にワイン部門の責任者やバイヤーまで務めあげます。
成城石井で学べることは十分学び、できることはしっかりやったと感じられた入社後5~6年のタイミングで、つぎは実地でワインを学ぶべく神楽坂のフレンチへ。
20代後半でのサービスマンとしてのスタートは早いものではありませんでした。決していいサービスマンではなかったと中尾さんは述懐しますが、4~5年間かけて王道フレンチのソムリエとして心得を知り、飲食ビジネスの勘所を学びます。
最終的な独立を見据えた時、次に必要なものはワインの出口と入り口、つまり輸入ビジネスへの理解と販売先の確保でした。
その二つを学ぶべく独立前最後のキャリアを恵比寿のワインショップ、ラ・ヴィネで築くことにします。
こうして、小売り、レストラン、輸入ビジネスそれぞれの知識とスキル、ノウハウを手にして20年弱の準備期間を経て、独立の用意が整いました。
「ウィルトスワインはナチュラルワインや日本ワインを中心に、ブルゴーニュワインやオールドヴィンテージのワイン、自社輸入ワインも扱うワインショップです。」
これはウィルトスオンラインストアの紹介文です。
しかし、はじめからこのようなコンセプトでやっていこうと思っていたわけではありませんでした。
「独立当時はナチュラルワインや日本ワインもそもそもそんなになかったですし、クラシックなフランスワインばかり飲んでいたので、高価格帯のフランスワインを中心としたラインナップを考えていました。」
しかし、ウィルトスをはじめてみるとナチュラルワインや日本ワインが次第に注目されるようになり、実際にインポーターからの提案も増えてきました。
ナチュラルワインや日本ワインの勢いに商機を見出すと、少しずつ取り扱いを増やし、結果的に飲食店との取引も増えていきました。
今でもクラシックなフランスワインとナチュラルワインの売上は半々くらいだと言いますが、ウィルトスという中尾さんが立ち上げたお店は中尾さんの想定を超えた形で成長していくこととなります。
ウィルトスやその代表を務める中尾さんは、現在ではナチュラルワインの文脈で語られることが多い店であり、人です。
しかし、中尾さん自身、ワインをカテゴライズするという行為そのものに疑問を持っているようです。
「ワイン造りもグローバル化してきており、これまで特定の地域でのみ共有されていたノウハウは、広く普及し多くのものと混ざり合うように発展していきます。その中では、もはや括弧付きのカテゴライズというものはあまり意味をなさず,究極的にワインはその生産者の意図と実際に出来あがったワインの味筋でのみしか語れないほどに多様化してきています。」
一方でワインの消費シーンにおいては、カテゴライズすることで認識されるものなので、カテゴリーは重要ですが、いったん広まったカテゴリーは破壊されてその役割を終えるもの、まさに「カテゴリーは破るためにある」ものだと考えられているそうです。
「最終的には、カテゴリー云々ではなく、生産者というアーティストに注目が行くようになっていくと一番ですね。」
そう語っていらっしゃいました。
さて中尾さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがった中で感じたのは、
・自分の夢のためへの惜しみない投資
・市場の見極めと高い順応性
・ゼロベースでの思考力
中尾さんは、おしゃれな服を着こなし、素敵なスニーカーを履く、長髪のお兄さんです。
何が言いたいかというと、一見すると、何でも要領よく上手にこなしそうなイケイケ感があります(*著者主観)。
しかし、そんな中尾さんでも独立までに20年弱の歳月をかけ、虎視眈々と必要なスキルを身につけ、将来的に携わる事業のノウハウを学び、業界の中でネットワークを築いてきました。
独立後も年に休むのは10日くらいというほどのハードワークを7,8年間の月日にわたって送っています。
そうすることで初めて、市場を冷静に見極め潜在ニーズを探り当てるスキルやどこかの誰かが言い出した既存のカテゴリーを超えたところで物事を考えることのできるだけの思考力が培われていったとおっしゃいます。
たゆまぬ努力こそが成功の秘訣だと改めて気づかせてくれます。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「これだけ多様化が進んでしまった現代において、ワインの勉強は飲まないことには始まりません。多くを飲み、記憶し、自分なりに体系化することでワインを評価できるようになります。忘れてはならないのが、どこまでいってもビジネスとしてワインと向き合うのであれば、『見た目×味わい×価格』という消費者目線のワイン評価軸の中で適性な判断ができるように努めることです。
そして、そういう物差しは他に抜きんでたハードワークでしか培うことはできません。仕事上でのハードワーク、人間関係における気遣いのハードワーク、プライベートにおけるワイン学習というハードワーク。この業界で本当に成功したいのであれば、決して避けては通れません。頑張ってください。」
中尾さんの熱い思いが詰まったお店に是非足を運んでみてください。
●ウィルトス神宮前:VIRTUS WINE Jingumae(@virtuswine)
●ウィルトス自由ヶ丘:VIRTUS WINE Jiyugaoka(@virtuswine.jiyugaoka)
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