4月 10, 2023
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、シャンパーニュのポル・ロジェ、アルザスのヒューゲル、ローヌのボーカステルのジョイントベンチャーとして誕生したジェロボーム株式会社(以下、ジェロボーム)のCEOであるCarl Robinson/カール・ロビンソンさんにお話をうかがいました。
イギリス生まれ、ニュージーランド育ちのカールさんは、さぞワイン界のサラブレットと思われるかもしれませんが、なんと26歳までほとんどお酒とは無縁の生活を送っていました。
その理由は、カールさんの音楽人としての生き方にありました。
「当時のニュージーランドは、パンク系バンドが多くて浴びるようにお酒を飲んでいる人ばかりでした。なので、その真逆をいってやろうと、”NO ALCOHOL,NO MEAT”なピュアな生活を送っていました。」
そうなんです。若いころのカールさんはミュージシャンとして活動されていました。
*バンドマン時代のお写真(カールさんは向かって左から2番目)
「もともと趣味で生きていきたかったので、音楽や写真などを生業にしていました。ワインもその延長線上です。今も趣味に生きているので、日々仕事をしているという感覚はそんなにないですよ(笑)」
26歳まではニュージーランドとイギリスでミュージシャンとして活動し、その後はスポーツ写真などを撮影するカメラマンとして活動していたそうです。
そんなカールさんとワインの出会いについてうかがってみると…、
当時のロンドンでワインといえば、ある程度知識を持っていないとショップに入るのもはばかられるような少しスノッブなものだったそう。しかし、法改正でスーパーマーケットなどでもワインが購入できるようになっていくと、次第にワインは一般の人々の間にも広まっていきました。
カールさんが最初にワインと知り合ったのも、そんなスーパーのお酒コーナー。ラベルなど見ながら、少しずつ飲むようになっていくと、徐々に興味が湧いてきて、ワインスクールに通うようになり…、というのがワインとの馴れ初めだそうです。
ワインスクールでは、最初はワインのいろはの勉強からスタートし、WSET LEVEL2、ディプロマと取得していきます。ディプロマの勉強と並行して、ワインコンサルティングの仕事も請け負っていきます。
その後、奥さんの仕事の都合で日本へ来ることとなります。
一通りのワインの知識はあるものの、日本語はほとんど話せず、どうしたものかと思っていたそうですが、来日翌日に新聞でアメリカンクラブのソムリエ募集広告を目にします。
イギリスでの経験が買われ、早速働き始めることに。
ときは1998年、日本はポリフェノールに端を発した赤ワインブームでした。まさに日本中にワインが広がっていった時期です。
アメリカンクラブでの仕事のかたわらワインコンサルティングの仕事も行い、翌年日本でスタートしたWSETの講師業や航空会社機内誌での執筆、専門店のワイン選定など幅広く活動していたそうです。なんでも、日本版ジャンシス・ロビンソンを目指していたとか。
結局アメリカンクラブでは2002年まで働き、ワインコンサルタントを専業としますが、そんなカールさんに転機が訪れます。
それは、イギリスのとある著名なワインコンサルタントの自宅に遊びに行ったときのことでした。何十冊ものワインについての書籍を書いてきたその人は、ワインであればどんな贅沢もできる立場にありましたが、それとは対照的に普段の生活は質素なもの。
「ワインコンサルタントとしての限界を見た気がしました。そして、それと同時に家族を養っていくことを考えると別のアプローチが必要だと痛感しました。」
そこで、見出した活路がインポーター業でした。
ワインコンサルタントの仕事として、ジェロボームとはかかわっており、そんなおりタイミングよく、当時のCEOが引退、カールさんに白羽の矢が立ちました。
もちろん、即決。2006年からジェロボームのCEOに就任します。当時は8名だった社員も今では35名まで増え、取り扱いワイナリーも20もなかった当時から現在では100を超えるまでに。
さてカールさんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがった中で感じたのは、
・ワインへのパッション、決断の速さと行動力
・ほどよい野心
・運を逃さない姿勢
仕事を趣味と言い切れるほどのワインへのパッションは言うまでもありません。
しかし、カールさんのキャリアを見てみると、日本に来て早々にアメリカンクラブという素晴らしい職場を見つけ、さらにシャンパーニュのポル・ロジェ、アルザスのヒューゲル、ローヌのボーカステルという有名生産者のジョイントベンチャーに携わり、さらにはCEOの機会を手にするなど、巡ってくる運を逃さず手にしています。
まさに、「幸運の女神には前髪しかない」という格言の通りです。
そして忘れてはならないのが、ほどよい野心です。ワインコンサルタントとしての限界を感じ、次に進もうとする意志がなければ、カールさんの今はありません。
「清貧」が良しとされる日本において、必要なのはその少しの野心なのかもしれません。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「ワインの勉強とは、とにもかくにも飲むことです。そのうえで、自分がワインのどんな職種にパッションを注ぐことができるか考えてみてください。日本のワイン業界における、専門商社の数は他の国から見ても特異なものです。それは、自分が心血を注げられるものを見つけられれば、ちゃんとビジネスにできる市場であることを意味しています。まだまだワイン業界でできることはたくさんありますので、一緒に伸ばしていきましょう!」
家族経営のファインワイン商社ジェロボームのワインを飲んで、カールさんのこれまでとあなたのこれからを是非考えてみてください。
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