2月 24, 2023
「人間は、目標を追い求める動物である。目標へ到達しようと努力することによってのみ人生が意味あるものとなる。」
こう言ったのは、古代ギリシアの哲学者アリストテレスですが、そんな生き方を体現する、2011年J.S.A.全日本最優秀ソムリエコンクール優勝者にして、ホテルニューオータニ東京のレストラン統括支配人谷宣英さんにお話をうかがいました。
誰かに憧れたことのない人はいないのではないでしょうか?
大学時代の谷先生も例にもれず淡い憧れを持つ青年でした。
憧れの対象は、トム・クルーズ主演の映画『カクテル』。トム・クルーズ演じるブライアン・フラナガンの華麗なフレアバーテンディング(派手な曲芸パフォーマンスを売りにするカクテル作りのスタイル)に魅力された谷先生は、バーテンダーになることを夢に見ます。
夢への一歩目は、新宿のカフェバーでのバイト。結果として、バイトにカクテル作りを任せてもらえることはなかったものの、カクテルの勉強に明け暮れていたとのことです。
そんな谷先生の就職活動期は絶賛氷河期。商学部貿易学科に通っていた谷先生は、カクテルと貿易学の両方を活かせる分野として、酒類の専門商社を志しますが、なんと全滅。
ちょうどその頃、テレビでソムリエ田崎真也さんの活躍を目にします。コンクールで優勝する姿にトム・クルーズ以来の憧れを抱きます。
仕事をサービス業に切り替え、なんとか東京會館の職を手にすることとなります。
こうして憧れから谷先生のワイン道が幕を開けます。
東京會館では、最初の1年こそ宴会場を担当しますが、ソムリエへの熱意もかわれて、2年目からメインダイニングへ。
日本一のソムリエを目指すという夢を実現するため、ワインの勉強にも精を出し、25歳で当時のコミソムリエコンクールで見事優秀賞を受賞します。
幸先のいいスタートに見えますが、同時並行でチャレンジしていたポメリースカラシップには負け続けること、5回。6度目の2000年ついに優勝を果たします。
ポメリースカラシップの優勝は、谷先生は二つのものをもたらしてくれたと語ります。
ひとつは、優勝者への特典でもあるフランス研修、そしてもうひとつはポメリースカラシップ決勝に来ていたトゥールダルジャン総支配人からのお誘い。
フランス研修で経験したレストランのサービスでは、お客さまをいかに楽しませるかに主眼が置かれていました。
これは、東京會館でビジネス利用のお客さまを相手に黒子として、お客さまが望まれることを粛々とこなしていた谷先生には衝撃だったそうです。
そして、ほどなくしてトゥールダルジャンに移籍して、谷先生にもそのようなソムリエとしての在り方が求められるようになります。
すると、これまでは自己研鑽のためだった学習は、お客さまにより楽しんでもらうための学習へと変わっていきました。そして、学んだことをすぐにアウトプットするための場がそこにはあったと言います。
谷先生が2000年に優勝されたポメリースカラシップは、いわば若手ソムリエの登竜門であり、ソムリエとして日本一を名乗りたいのであれば、取るべきは3年に1度行われるJ.S.A.全日本最優秀ソムリエコンクールでした。
当然真の日本一を目指して谷先生のアスリート顔負けの研鑽の日々がスタートします。
そして、トゥールダルジャン異動後の30歳の頃、なんと準優勝を果します。
日本2位までくれば、あとはもう一歩と思われるかもしれませんが、ここからが長かったと谷先生は述懐します。
33歳で3位、36歳の2008年大会では再び準優勝。
「正直、2008年の準優勝の結果を聞いて、落胆しました。本当にもうコンクールをやめようと思ったのですが、当時ソムリエ会長であった小飼さんから『モチベーションを高く保つベテランが一番強い。またがんばれ!!』とお声かけいただき、なんとかモチベーションを保つことができました。ですけど、ほとんど意地みたいなものです(笑)」
それもそのはず、3年に1度のソムリエコンクールへ向けては、毎日3~4時間の勉強を続け、コンクール直前ともなれば寝る間も惜しんで(ベッドだと寝すぎてしまうので、机で寝ていたそうです!)準備に励みます。
しかも、その間も当然ホテルでの多忙な仕事はあります。
また、日本最高を決める大会のための問題集などはないので、様々な書籍を原書で読みあさり、過去の問題の傾向から自分で問題を作ってみて、自分で解いてということを繰り返していたそうです。
そして、見事2011年の大会で優勝を勝ち取ります。
その後は現場仕事をこなしつつ、後進育成につとめ、45歳の年にホテル全体のソムリエとなり、トゥールダルジャンからは離れ、2021年にはホテルニューオータニ東京史上初めてソムリエからのレストラン統括支配人という立場になります。
そんな谷先生のセミナーでは、これまで磨きに磨いてきたテイスティング能力を遺憾なく発揮したテイスティングトレーニングが受けられるセミナーとなっています。
各回6種類のワインをテイスティングして、受講者さんに思ったことを発言してもらいながら、谷先生が適宜コメントしていくというスパルタ授業です(笑)。
初中級コースと中上級コースがありますが、上のコースにはワインプラス主催のB-1グランプリ本選出場者も多数在籍しています。
●谷先生のセミナー
https://college.wineplus.jp/collections/nobuhide_tani
最後に谷先生にも最後の晩餐について尋ねてみると、
「数少ない感動した記憶に残っているワインということなら、1987年のヴォギュエのボンヌマールを挙げたいです。ちょっとミーハーですけど(笑)。」
お料理はという質問には、少し悩まれて、
「焼いた野菜、好きなんですよね。ブロッコリーとか(笑)。」
と、とてもアスリートらしいお答えをいただきました。
おあとがよろしいようで。
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