2月 21, 2023
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、92店舗の飲食店をかかえる株式会社バルニバービのヘッドソムリエ兼飲料統括をつとめる岩崎麗さんにお話をうかがいました。
岩崎さんのキャリアは、そのスタートからして少し意外かもしれません。
岩崎さんは、一橋大学経済学部生時代に飲食店バイトを経験し、自分がやった仕事の成果を直接目に見ることができる飲食の世界を志し、卒業してすぐに飲食の道へ。
まわりは外資系企業や金融業界などに就職していく中で、日本人として和食文化を知りたいと創作和食などを展開する会社への就職を決めます。
高級業態の炉端焼き、創作和食を4年間経験し、店長まで勤め上げましたが、性格上、店長になってしまうと仕事をやりすぎてしまい、ワークライフバランスなどあってないようなものに……。そうして一度4年のキャリアに幕を下ろします。
飲食以外も一度は経験しておこうと、採用業務を行う会社へ転職。結果的には1年で飲食に戻ることにはなりますが、現場仕事ではあまり見につかない事務作業を集中的に行うことができたと語ります。
そうして舞い戻った飲食の世界こそ、今岩崎さんがヘッドソムリエ/飲料統括を務めるバルニバービという会社でした。
バルニバービでは、岩崎さんはプレイヤーとしてあり続けるために会社と一つの取り決めをします。
プレイヤーとしてい続けるために店長職にはつかない。その代わり、ワインという専門分野を身に着ける。
この時の決断が岩崎さんのキャリアを形作っていきます。
前職の時にもワインについては一応の勉強をしていましたが、ここから本格的な資格に向けた勉強がスタートします。しかし、当然仕事は仕事としてこなさなければなりません。
特に、入社のタイミングは当時のバルニバービとしては東京以外の初の関東出店として江ノ島にレストランができるタイミングでした。
岩崎さんもオープニングスタッフとして起ち上げにたずさわり、ソムリエ試験勉強のかたわら夏の江ノ島の激務をこなします(江ノ島の店舗ではウェディングプランナーとしての仕事もしていたというから驚きです)。
取引先でもあったインポーターの助けもあり、入社年にはソムリエ資格を無事取得します。
当時バルニバービには関東地域にソムリエがいなかったこともあり、30歳手前にして東京全店のワインの管理を任されることになります。
ソムリエになったとはいえ、試験に受かったばかりの30歳手前に任せるには荷の重そうな業務ですが、「獅子の子落とし」とも言える厳しい環境で岩崎さんは経験を積んでいきます。
今では、92店舗うち40~50店舗のワインを含めた飲料を見ているという岩崎さん。
バルニバービは1店舗1業態という方針を持っており、GARBのような同じブランドであってもそれぞれの店舗ごとにコンセプトは違いますし、その店舗のシェフの持ち味を生かせるよう、メニューも異なります。
となると、当然ワインリストもそれぞれの店舗のコンセプトにあったものが必要になってきます。そして、それには各店舗のコンセプトの理解、シェフへの理解、各店の飲料を担当する人への理解が必要になってきます。
しかし、岩崎さんは語ります。
「都内の店舗であれば、ほとんどの店舗で働いた経験もありますし、オープニングにも携わっています。なので、今現場で働いているスタッフよりもコンセプトふくめ店のことを理解しているし、起ち上げという大変な時を見てきた分、深い愛を持っている自負があります。」
店舗のグランドメニューは年に2~4回の変更がなされ、店舗によっては一から岩崎さんが自らワインリストを作成し、ソムリエ資格保有者など、知識と経験のあるスタッフがいる店舗にはワインリストの作成を任せ、その内容をチェックします。
店舗からあがってくるメニューを見るだけで、現場担当者がいまどこのインポーターや酒屋と懇意にしていて、どのくらいワインの勉強をしているのか、どのようなコスト意識を持っているかが見えてくると言います。
後進育成のためにも、店舗担当者の意欲を削ぐことのない声かけには、高いマネジメント能力が求められるのは言うまでもありません。
飲料統括にとどまらず、岩崎さんは2015年頃から自身が資格を取得したレコール・デュ・ヴァンでの講師業や昨年からは社内のサステナビリティ推進も担うようになっており活躍の幅を広げています。
もっともレコール・デュ・ヴァンでの講師業は社内での後進育成やサステナビリティ推進活動にも役立っており、資格試験対策講座をすることで現場にいるとあらためて読むもこともなかったソムリエ教本で知識のアップデートはかることもしている、といいます。
さて岩崎さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがった中で感じたのは
・まわりを認めさせる働きぶり
・細部まで見通せるようになるほどの愛情
・新しいものへのチャレンジ精神
・新しいものをこれまでの自分にアドインさせる能力
「働くコンテンツを多様化させることで、多様化するライフスタイルに応えることができるのはと考えています。そのためにも新しいものへのチャレンジはもちろんのこと、自分の持っているアセットへいかに落とし込めるかを考えることが重要です。そして、こういった考え方は日ごろから店舗やワイン一つ一つに愛情を持って接していないことには思い及ばないことなのです。」
そのようにお話してくださいました。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「『好きなことをする』というのは、聞こえはいいですが、本当に大変なことです。自分が好きなことに打ち込める環境を作るためには、人より額に汗して働いて、まわりに自分が好きなことに打ち込むことを認めてもらわなきゃいけないですし、そこまでやっても「好きなことをやれていいね」と言われるのが落ちかもしれません。しかし、その好きや愛情なくしてはビジネス上のブレークスルーは望めません。」
岩崎さんのなみなみの愛情が注がれたバルニバービのお店に、是非足を運んでみてください。
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