2月 12, 2023
タイムトラベルが可能か否か、タイムマシンは造られるのか、そんな議論は19世紀末にSFの巨匠H・G・ウエルズが”The Time Machine”を書いて以来、喧々諤々行われてきました。
“時は2023年2月6日、ワインプラス編集部はSherry Museumオーナー中瀬航也さんのセミナーに参加し、タイムマシンあるいはタイムトラベルの片鱗をみたので、ここに記したいと思う。”
『シェリーミュージアムアネックス』では、Sherry Museum のオーナーである中瀬先生が、アネックス(=別館・離れ)という言葉通り、シェリーに限らず様々な洋酒の歴史をひも解きながら紹介してくれます。
試飲は10種類ほどございますが、本セミナーにおいて、テイスティングは中瀬先生が連れて行ってくださる歴史を追体験するためのツールとして機能しています。
提供される洋酒は、普通では手に入らないものや普段ではわざわざ手を出さないようなもの(中瀬先生の話を聞けば、普段手を出さなかった洋酒にも違う顔が見えてくるので面白いのです!)まで様々です。
中瀬先生ご本人も「自分のセミナーは歴史の話が大半」というほど、深くそして濃い歴史の話を聞くことができます。
また回によっては、お食事も出てくるのですが、それがまた当時の歴史の香りを感じさせてくれる素敵な提案だったりもします。
実際にわたしが参加したのは、先述のように2023年2月に行われた「日本の洋酒文化」と題されたセミナーでした。
セミナーが始まると、タイムマシン中瀬号は17世紀まで一気に時代をさかのぼってスタートしました。
当時の日本をめぐるスペインとポルトガルをはじめとした欧州列強の話からスタートします。日本との関係構築のために使われたのがお酒の献上品。
あの文献に書かれてあるこれは実はこのお酒のこと、この時の献上品は時代背景なんかを考えるとあのお酒と、ただ文献を読んだだけではたどり着けない踏み込んだ解説が進んでいきます。
と思えば、タイムマシン中瀬号は、次は海に乗り出しています。
長い航海の中で、重宝されたお酒の特徴とその理由、食事事情など一つの事象に対して様々な角度からアプローチしてくれるのも、このセミナーの楽しさです。
何でも当時の航海のご馳走の一つは海亀のスープだったとのことで、すっぽんのスープとアモンティリヤードペアリングも出てきます。
その他にもペリー来航の際に、ペリーに献上した養命酒ならぬ、保命酒が出てきたり。
歴史の話を聞き、気持ちはその歴史に身を置きつつ、追体験するように洋酒を飲む。
これこそ中瀬先生のセミナーの真骨頂なのではないでしょうか。
当日試飲したものの一部を紹介させていただくと、ペドロヒメネス、ティンティージャデロタ、蜂印香竄葡萄酒、と耳慣れないものも多いかもしれませんが、全てが「日本の洋酒文化」の一幕を飾っており、中瀬先生の話に耳を傾けながら歴史の中で味わうとまた格別なものがありました。
中でも、当日の目玉商品は年代物の赤玉ポートワイン。
中瀬先生ご自身もどのくらい前のものかわからないとおっしゃっていました(少なくとも半世紀前とのこと)。そんなものが出てくるセミナーっておそらく日本全国、このセミナーくらいのモノでしょう。
実は今回のセミナーを受ける以前から、中瀬先生のセミナーの噂はかねがね聞き及んでおりましたが、そのたびにわたしには常々疑問が浮かんでいました。
「果して一般の人がついていけるレベルの内容なのだろうか?」
「深く濃密なセミナーで受講生が置いてきぼりになるようなことはないのだろうか?」
実際に受講してみてわかりましたが、『シェリーミュージアムアネックス』はついていくという類のものでなく、タイムマシン中瀬号に乗って一緒に進んでいくというものだったのです。
東京都広尾でまさかタイムトラベルが体験できるとは思っておりませんでしたが、まさしく歴史の息遣いまで感じることができる(そして、当時の洋酒を楽しむことのできる)セミナーでした。
実際に、セミナー終了後も受講者の多くがタイムマシン中瀬号を降りたがらずに、最後のもう一杯を、最後の質問をと教室に残っていらっしゃったのがとても印象的でした。
タイムトラベルと洋酒文化に興味のある人は、タイムマシン中瀬号あらため『シェリーミュージアムアネックス』にぜひともご参加ください。
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