2月 09, 2023
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、ニューヨークワインという新たな境地を開いたGO-TO WINE代表の後藤芳輝さんにお話をうかがいました。
日本人のほとんどが、ニューヨークでワインを造っている(なんならブドウを栽培している)ことも知らなかった時代に、ニューヨークワインの輸入をしようなんて奇特な人物が実はもともと極真空手の先生だったと知れば多くの人が驚くのではないでしょうか?
後藤さんは中学から極真空手を始め、大学時代には全日本でベスト8に入るまでになります。そして大学卒業後、極真空手のニューヨーク支部に指導者として派遣されました。
当時は、空手の指導員のかたわら、語学学校や大学院でのMBA取得に励みました。
しかし、ようやく大学院も卒業した2001年に、9・11同時多発テロ事件がニューヨークを襲いました。
世界の中心とも言われるニューヨークが今後どのような方向に向かっていくのかをこの目で見たかった後藤さんは帰国をすることなく、日系ロジスティック企業に就職。その後は大手商社に転職し、鋼材の営業マンとして全米を飛び回り、日系自動車メーカーのサプライチェーンの一翼を担っていました。
「今思うとこの時の経験が、広大なニューヨーク州においての市場開拓や人間関係構築に役立ち、コスト低減の方法も分かっていたから東海岸からのワイン輸入に踏み切れました」
と後藤さんは述懐します。
貿易や物流業界での経験は8年を数えた2009年に13年以上の年月を過ごしたニューヨークを後にし、日本へ帰国します。帰国後は父の貿易会社へ。
しかし、せっかくの貿易会社ならこれまでのニューヨークでの経験を活かして、
「日本とニューヨークを繋ぐ仕事がしたい」
そう思い立ち、後藤さんのワインへの道が開けていきます。
とはいえ、すぐにワインを輸入したわけではありませんでした。というのも、後藤さんはニューヨーク在留時も特にワインを飲むような生活は送っていなかったのです。
転機は、東日本大震災直後にマイアミで開かれたご友人の結婚式。その時に久しぶりに再会したワインブローカーの友人からワインビジネスの話を聞き興味を持ちます。
帰国後、どういうワインを扱うかなどはひとまず置いておいて、ワインの知識をつけるためのワインスクール通いと酒販免許取得に乗り出します。
ワインビジネスについて情報を集める中で、自分の知識と経験を活かして戦える舞台はニューヨークをおいてほかにないと、ようやく注目したのがニューヨークワインでした。
さて、ここまで読んでいただいてわかるように、この時点で後藤さんのワインビジネスへの熱量は比較的「緩め」です。
実際、後藤さん自身もワインビジネスは副業としてお小遣い稼ぎと、ニューヨークに行く口実ができればいいかなというのが本心だったとのこと。
2012年にGO-TO WINEを設立し、2013年に初入荷を果したそうですが、その過程でワインビジネスを本業としていく決心がついたそうで、
「運良く2013年の初旬にニューヨークのワイン生産者が一同に会する大きなイベントが開かれ、これは絶好のチャンスと思い顔を出したら、輸入を決めた生産者たちからニューヨークワインを日本で広めてくれる伝道師だ!くらいの感じで大々的に紹介されまして、他の生産者たちも自分のワインを日本でも広めてくれってお願いしてくるしで、これは困ったな、と(笑)」
でも、そのような生産者たちの熱い思いを受け、本気で向き合わなければと思いを固めました。
2013年以降、まったく認知度のなかったニューヨークワインをここまで普及したその経営手腕は皆さん気になるところだと思います。
その秘訣を後藤さんにうかがったところ、
「ニューヨークワインを売るのではなく、ニューヨークを売る、つまりはニューヨークの文化やライフスタイル、歴史を知ってもらうようにすることで、自然とみなさん興味を持ってくださいました。」
ワインに詳しい人は当然掃いて捨てるほどいるこの業界においても、ニューヨークに詳しい人はそういません。
ニューヨークワインへの評価が世界的に上がっていく中で、ニューヨークとニューヨークのワイナリーに精通している後藤さんの価値は上がっていき、様々な業界のインフルエンサーの目にも止まるようになっていきました。
これまでは、多くの人に届けることに注力していた後藤さんですが、ニューヨークワインの注目度が世界的に高まり、商品の希少性も出てくる昨今、必ずしも多くに届けることが正義ではなく、届けるべき人に届けることを心がけているとおっしゃいます。
さて後藤さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがっていく中で感じたのは、
・とりあえずやってみる行動力
・パイオニアとしての上手なポジション取り
・自分の強みを活かして勝負
・人の思いに真摯に向き合うこと
ワイン業界前は、大手自動車メーカーの巨大サプライチェーンの中で、いわば一つの歯車として粉骨砕身していた後藤さんにとって、重厚長大で無機質な世界観ではない、人間味のあるワインの世界が好きだとおっしゃいます。
そのような後藤さんだからこそ、ニューヨークのワインメーカーも自分たちの思いを後藤さんに託し、国内のワイン業界インフルエンサーの方々も後藤さんに力を貸そうという気持ちになるに違いありません。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「ワインはお酒としてだけでなく、食、歴史、文化、ライフスタイルなど様々なジャンルに結び付くとても多面的な世界を持っています。見方ひとつでまだまだ気づかれていない面白い可能性を秘めていると思うので、ぜひ誰かがつくった価値観に流されることなく、自分の方向性を見定めてみてほしい。」
とのことです。
最後の最後になりますが、後藤さんは2022年12月にニューヨークワインをもっと肌で感じて知ってもらうための場として経堂に『go to wine shop & bar』をオープンされています。
ぜひニューヨークの風を、そして人の温かみを感じに店舗までうかがってみてはいかがでしょうか。
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