2月 08, 2023
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、ワインプロモーターという多くの人にとってはまだまだベールに覆われた仕事を行う別府岳則さんにお話をうかがいました。
別府さんとワインの出会いは大学生の頃までさかのぼります。
大学時代にバイトを探して、せっかくならなにか知識がつけられるものをということで見つけたのが、地元の高級スーパーのお酒売り場でした。
その時点でとくにお酒やワインに関心があったわけではないとおっしゃいますが、実際にお酒にふれて、自分の性に合うなにかを感じたと言います。
また、大学生活中の別府さんの楽しみのひとつは旅行でした。
アジアなどはバックパックですでに訪れていたので、次は欧州をと考えます。分厚いエイビーロード(海外旅行情報誌|2021年にサービス終了)をめくって目に入ったのは、ポルトガルリスボンの景色。
直感的にここだ、と思ったそうです。
もちろん、この時点では特段「ワイン」という目的があったわけではなかったとお話しされますが、別府さんとポルトガルの蜜月はここから始まるのです。
大学卒業後、最初の就職先に選んだのは、飲食店でした。
最初はイタリアンから始まり、のちにポルトガル料理店へ。6年間勤め、最後は全店統括まで経験すると、次なる活躍の場をワインの商流としてはより川上にあたる、インポーターへ転身します。
インポーター業務を3年ほどこなすと、次は小売りの世界へ。
「ワインの世界で、レストラン、インポーター、ショップを全て経験している人というのは意外とそう多くありません。つまり、ソムリエにはソムリエの、インポーターにはインポーターの、ショップにはショップの、それぞれの視点がありますが、それを俯瞰した中立的な見方をできる人が少ないということでもあります。」
そして、そんな視点を持っている別府さんだからこそ、ショップで働きながら、ショップという枠組みではなしえない様々なアイデアが浮かんできたと語ります。
オーストリアワインの試飲会もそんなアイデアの一つでした。
別府さんは2014年以来オーストリアワイン大使としての顔も持っていました。
しかし当時はオーストリアワインというものが理解されておらず、広まりづらい状況にあったと言います。
「国内で流通しているオーストリアワインが一同に会する機会があれば、オーストリアワインというものの全体像をつかんでもらえ、結果普及していくのではないかと思ったんです。」
別府さんはそのように述懐します。
結果、インポーター、大使館などを巻き込んだこの取り組みは見事成功に終わりました。
(2022年11月ポルトガル訪問時の写真)
2021年、より自由に自身のアイデアを実現していくために、ワインのプロモーションに特化した仕事である「ワインプロモーター」へと転身します。
今では、オーストリア、ポルトガル、アルゼンチン、ニューヨーク、ギリシャ、チリ、フランスなど国は問わず、面白いと思った企画には積極的にかかわっているとおっしゃいます。
オーストリアワイン試飲会の経験も、ポルトガルへと横展開し、これまで生産者主導で行われていたヴィニポルトガルに変わるインポーター主導のポルトガルワイン試飲会などを開催し、ポルトガルワインの輸入量、単価ベースに成果に表れていると言います。
しかし、アメリカの百貨店王ジョン・ワナメイカーが19世紀に看破したように、
“Half the money I spend on advertising is wasted; the trouble is, I don't know which half.”
(広告に使っているおカネの半分は無駄とわかっている。 問題は、どちらの半分が無駄かわからないことだ。)
という広告業界のジレンマには常に悩まされるそうです。
特に、日本市場は海外から見ても、言語の壁や特殊な消費者性向もあり、非常に特殊な市場として位置づけられています。
つまりは、別の国での成功例を転用しづらく、ゼロベースでの企画が求められます。
「プロモーションと実際の成果の因果関係を明確に見出すことは非常に難しく、それもあってか、従来型の足で稼ぐ営業ばかりが重視されてしまいます。しかし、ワインプロモーターという仕事は海外ではごくごく一般的なもの、日本のワイン消費量を次のフェーズに持っていくためには、やはりそういった施策も重要になるでしょう。」
そのようにお話してくださいました。
さて別府さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがっていく中で感じたのは、
・ワイン業界の川上から川下まで理解している
・裏方仕事から表の仕事までできる柔軟性
・複数のニッチで存在感を出し、全体でも存在感を出していく
・世界で一般的なプロモーション業に先んじて取り組んでいること
世界で成功した事例を、まだ展開されていない国内で展開することで商機を見出すというのは、ソフトバンクの孫正義さんのタイムマシン経営に通ずるところがあります。
また、ニッチをおさえて市場全体で存在感を高めていくというのは、アマゾンのジェフベゾスが初期の書籍販売で小規模な本屋さんを大量に囲い込むことで大規模書店に対抗する力を得たという話にも類似性を見ることができます。
最後に、ワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「みなさんの持っている『好き』を追求してほしいです。結局、その部分がなく、売れる/売れないみたいな軸だけで動いていると、どうしても面白い発想はできないですし、商売勘みたいなものが鈍っていきます。
だけど、『好き』を追求するということは、ただマニアックになれというのともまた違って、ワインだけにとどまらずその背後のものも含めて知っていくということです。そうしていくと、他の人にはないあなただけの強みが見えてきます。
ともあれ、気長にやってください。
ポルトガルワインもようやく業界で市民権を得てきましたが、それだってここ数年の話。わたしは20年前からポルトガルワインを推しているんですから(笑)」
日本ではまだまだ数少ないワインプロモーター業に興味のある方は、別府さんに弟子入りしてみるといいかもしれません。
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