2月 03, 2023
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、ボルドーワイン委員会(C I V B)ジャパンカントリーマネージャーである大塚麗子さんにお話をうかがいました。
ボルドーワイン委員会(C I V B)のカントリーマネージャーと聞くと、どんな方をイメージされるでしょうか?
グランメゾンでの経験があり、フランス語堪能で、現地の醸造学校を出ていて、ディプロマを持っていると尚良し…
そんなイメージをされる方も多いかもしれません。
しかし、大塚さんはカントリーマネージャー就任以前のワイン業界での経験はゼロ。
日本の大学を卒業し日系企業に就職するも、数年後にはラグジュアリーマーケティングの勉強をしにニューヨークへ。そのままトレンドフォーキャスティング(トレンド予測)を行うニューヨークの企業に就職。以降、世界各地でラグジュアリー市場での経験を積んでいきます。ボルドーワイン委員会(C I V B)の話をもらったのは、企業勤めから独立してご自身でコンサルティング業を営んでいた頃だそうです。
繊維、アイウェア、香水と様々なラグジュアリー市場での経験を積んでいた大塚さんでしたが、まだ開拓できていなかった分野が「食」というジャンルでした。
その頃の大塚さんのワイン知識はというと、好きで飲んでいるけど、ほぼ皆無という状態だったそうですが、
ボルドーワイン委員会(C I V B)は、業界にはない新しい知見を持ちながら、ボルドーワインのブランディングをできる人材を求めており、ラグジュアリー市場で経験を積んできた自分ならそれができる!
と、一念発起してカントリーマネージャー就任を決意し、17年ぶりの日本での仕事をスタートします。
「ボルドーワイン=格付けワイン」というイメージでボルドーワイン委員会(C I V B)に足を踏み入れた大塚さんでしたが、実際に仕事として注力すべきは1000円~4000円のカジュアルなボルドーワインでした。
ラグジュアリー市場とは全く勝手の異なるマス市場で結果を出していかなければならないことに戸惑いつつも、就任後はこれまでの委託先がやってきたことの洗い出し、新しい戦略立案、KPI(重要業績評価指標:Key Performance Indicator)設定、そしてもちろんワインの勉強と、やるべきことは盛りだくさんでした。
「この7年間は仕事しかしてこなかった。」
とおっしゃるほどの仕事漬けの日々を送ります。
ここまで猛烈に働かなくてはならなかったのには、ボルドーワイン委員会(C I V B)側の焦燥感もありました。
というのも、実はボルドーワイン委員会にとって、日本市場は長らくカントリーマネージャーを置くほどの「最重要国」ではなかったのです。
それは、当たり前のように日本に入ってくるワイン輸入国(数量ベース)の1位はフランスであり続けたからでもあります。しかし、2015年に初めてその順位が変わり、チリがフランスを上回ったことで、テコ入れに乗り出したという背景がありました。
猛烈なハードワークのおかげもあり、2021年の日本へのボルドーワインの輸出は数量ベースで世界4位、金額ベースで世界6位と上昇し、一方で大塚さん自身のもう一つの課題であったワイン学習においても2018年にはWSET LEVEL3を取得するまでになりました。
ボルドーワインというと、歴史と伝統、ワインの味わいも相まって、重厚なイメージを持たれている方も多いかもしれません。
しかし、そんなイメージも変わりつつあります。昨今では、世界中で経験を積んできた若手生産者の活躍が世間に広まるところとなり、SDGSへの配慮はもちろん、女性の進出など目覚ましい変化が起きている、これまでの伝統と歴史のある産地だからこそ革新するワイン産地の筆頭格こそがボルドーなのです。
「『伝統と革新』をテーマにボルドーワインのブランディングは行われてきましたが、これまでのボルドーワインはその伝統面ばかりが目立っていました。変わりゆくボルドーワインの今を知ってもらい、そのカジュアルさ、多様性の豊かさを楽しんでもらえれば。」
と大塚さんは語ります。ワイン業界経験のない、女性の大塚さんがジャパンカントリーマネージャーに就任していることも、ボルドーワインの革新の一端なのです。
閑話休題。話を大塚さんに戻します。
常に戦略立てて行動する、ロジカルシンキングが得意な大塚さんにキャリアの秘訣を聞けば、綿密に練られた戦略の話が出てくるのかと思いきや、意外な答えが返ってきました。
「結局は『人』です。」
ボルドーワインの普及に携わる方々を「チームボルドー」として大事にされているという大塚さん。
「最終的には、飲んでもらう人に楽しんでいただき、一緒に働く人に満足してもらい、関わった人に幸せになってもらいたい。そうしないことには何も動かない。」
人が大事ということは決して人に頼りっぱなしということではありません、大塚さんはチームの人にこう動いてほしいという姿勢を見せるために、1年もかけてテレビ出演を勝ち取ってきたこともあるそうです!
●大塚さんが実際に勝ち取ってきた「日立世界ふしぎ発見!|第1535回歴史と文化を生んだ川・ガロンヌ世界遺産を巡る旅」
https://www.tbs.co.jp/f-hakken/onair/191130.html
お話をうかがって見えてきた大塚さんのキャリアの秘訣は、
・圧倒的なハードワーク
・始めたことをやり通すグリッド力
・自分の強みを知り、強みを活かすための術を知っている
・人を巻き込んで進んでいける
アフリカのことわざで「早く行きたければ、一人で進め。 遠くまで行きたければ、みんなで進め」というものがありますが、大塚さんはまさにこれを体現しているようです。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「かつてのボルドーワインがそうであったように、伝統と歴史のあるワインの業界に長くいると、とかく頭でっかちになりがちですが、ワインは楽しむもの、という一番大事なことを忘れずにキャリアを築いていってほしいです。」
ラグジュアリー業界で文字通りきらびやかな世界を体験しながら、ひょんなことからワイン業界に(それもボルドーワインの世界に!)入りながらも、信じられないバイタリティで道を切り開いてきた大塚さん、今後はより一層遠くに進んでいくための「チームボルドー」を作っていくということです。
大塚さんがどこまで行くのか、みなさんぜひボルドーワインを飲みながら見守っていてください。
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