5月 15, 2026
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、Googleの「出張ソムリエ」検索ランキング一位の株式会社ワンモアグラス 代表 篠原直樹さんにお話をうかがいました。

篠原さんのユニークなキャリアのスタートは、日本の最高学府「東京大学」から始まります。
東大では興味きっかけで理学部地理学科を専攻します。地理という切り口次第でいかようにも掘り下げることができる、学問としての懐の深さに面白みを感じたと語ります。
「今振り返れば、テロワールを理解するときに地理が役立っているのかも思うことはあります。でも、当時はまさかワインに繋がるとは思っていませんでした。」
石垣島のサンゴ礁をテーマに卒論を書き終え、将来はどこ吹く風と言うかのように、東大からまさかのフリーターに。カラオケ店でバイトしながら、暇な時間は本を読んで過ごすという仕事も2年ほど経つと、深夜シフトにも疲れができてきて、浴びるように飲んでいたお酒を仕事にしようと志します。
バーテンダーよりソムリエの方が、夜は短いだろうという発想で、銀座のレストランで働くように。
そこで出会ったワインに――まさに大学時代に打ち込んだ地理学のように――「どの角度からでもいかように掘り下げることのできる」面白みを感じたと述懐します。
銀座のレストランや伊豆のホテルで働く中で、ソムリエ資格も取得し、よりワインを深く学んでいくため、名店「シノワ」に転職します。
「ワインを勉強するには、飲まないことには始まりません。そういう意味で、シノワは理想的な環境でした。」
まだ今日のようにワインが高騰する前だったこともあり、今ではお目にかかるのも難しいようなワインがグラスで普通に並んでいたそうです。
フランスワインに特化した銀座店、世界中のワインを取り扱う渋谷店。7年間のシノワでの経験は今のソムリエとしてのベースになっていると語ります。
ワイン人にとっては、理想卿にも思えるシノワを離れた理由をうかがってみると、「自分がサービス向きでないことがわかった」とのこと。
その意味するところとは、篠原さんの興味関心が、お客さまよりもワインにあったことだったそうです――「一流店ならではのプロの接客を間近で経験すると、技術や経験以上に、お客さまへの興味や関心といったものがサービスの質に影響を与えると感じることがありました」――サービスは天職ではないのかもしれない...

篠原さんは次の活躍の場を酒販に移します。2011年起業し通販事業をスタートしますが、待っていたのは大手がしのぎを削る価格競争という厳しい事業環境でした。
そんななか、篠原さんを救ってくれたのはオーストリアワインでした。
シノワ渋谷店で習得したオーストリアワインの知識と経験を活かして、篠原さんはオーストリアワイン大使に選ばれていました。
そして当時のネットでは、オーストリアワインに真面目に向き合っているサイトはなく、ブルーオーシャンが広がっていました。
オーストリアワインに特化したワインのオンラインショップ運営。それが当時の篠原さんにとっての突破口でした。
そこから10年間ほどショップ運営を行っていきますが、ワイン通販の競争激化や為替の変化、ワインの蔵出し価格の上昇などもあり、刻々と事業環境は変化していきました。
そんなとき、Aoyama Wine Base青山ワインベースのオーナーから声がかかります。
平気でダメ出ししてくる篠原さんの姿勢をオーナーも気に入り、これまでやってきたオンラインショップを合流させる格好で、自身は店舗マネージャーとして、3フロアからなる青山ワインベースの起ち上げから携わることに。
立ち上げもひと段落したタイミングで、マネージャーを辞し、篠原さんは青山ワインベースとは業務委託のゆるやかな関係に移行します。
現在は自身で「よろずや」と自称するように、青山ワインベースから飲食店へのワイン販売サポート、輸入元の営業代行、ワインスクールでの講師など、さまざまな事業を展開しています。
中でも今一番力を入れているのが、「出張ソムリエ」だそうです。
「AI時代に入り、ソムリエにとって教科書的な知識の価値は大いに下がりました。その一方で、ワインの状態を判断できる、古酒をしっかり抜栓できる、自分の言葉で稀少ワインを語ることができる、といった技術や経験の価値が大きく伸びているように感じます。」
すでに一人では請負いきれないほどの案件を抱えており、個々の案件を回すことのできるチーム構築が今後の課題だと語ります。
さて篠原さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか? お話をうかがった中で感じたのは
・時代に適応して生き抜く力
・オタク力
・物怖じしない力
ご自身では「ワインの隙間産業を探して、何とかやっているだけ」とご謙遜されますが、その時代に応じて、ニーズはあるがサービスの手が届いていないところを見つけ出す嗅覚と形にしていく実行力は業界随一かもしれません。
さらに、ひとつのことを「オタク」的に掘り下げ学んでいくオタク力とその知識と経験を後ろ盾に誰にも物怖じしない強さ、それらがこれまで一人で業界生き抜いてきたキャリアのサバイバル術にほかなりません。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「ワインは正解のない世界です。だからこそ、結論を急がない姿勢が大事ですし、常に自分を相対化できるように一人ぼっちにならないようにしてください。
ビジネスという視点でいっても、マネタイズできるポイントはその時代時代によって変化していきます。スタンスを決めず、常に新しい視点で見つめなおす余裕をもって、この業界を楽しんでほしいです。」
「出張ソムリエ」というワードが一般的になるその日まで篠原さんの今後をお楽しみに!
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