12月 08, 2023
悩めるワイン業界人(と未来のワイン業界人)におくる「THEワインキャリア」の今回は、ワイン業界をドッグイヤーで駆け抜ける起業家ソムリエ佐々木健太さんにお話をうかがいました。
佐々木さんとワインのファーストコンタクトは、20歳、地元北海道のバーでバイトしている頃でした。
在籍中にソムリエ資格を取得すると、ワインで身を立てることを考え始めるようになります。
ワインをより深く学んでいくために、バーからフレンチへ転職。転職先のフレンチで圧倒的なハングリー精神が買われ、フランス、ニースの一ッ星レストランKEISUKE MATSUSHIMAへ修行に行くことが決まります。
こうして料理の知識も、ワインの知識も、語学力もままならないまま、21歳にして渡仏します。
最初は当然、戦力になるわけもなく、KEISUKE MATSUSHIMAの系列和食店で住み込みをしながら社会人としての基礎を叩きこまれます。
「それまでの人生はある程度、器用に何でもできたという自負がありましたが、自分の100%、120%をぶつけても通用しない、評価されないという環境で、初めて挫折を感じました。」
和食店での数ヵ月を経て、KEISUKE MATSUSHIMAに移りますが、配属されたのはキッチン。1分1秒が惜しい環境で、言われたことは一度で覚え、時間内に全ての仕事を終わらせるために常に先の先まで考えながら仕事をする、そんな仕事術を身に着けざるを得なかったと語ります。
一方で、休みの日はニースの料理人コミュニティでワインの勉強をしたり、自転車でニース近郊のワイナリー見学に行ったり、とワインの見識を深めていったそうです。
「2週間でモノにならなければ日本に帰れ」と言われて始まったKEISUKE MATSUSHIMAでの生活も気がつけば数ヵ月が経ち、予定の1年が過ぎました。
帰国後は、北海道でもワイン好きが通うノボテル札幌(現:プレミアホテル 中島公園札幌)の鉄板焼きレストランに勤めます。
当時のシェフソムリエは、80年代に日本一のソムリエに輝いた経歴を持つ澁谷昭さん。佐々木さんは澁谷さんの弟子として、研鑽を積み、25歳の頃に全日本最優秀ソムリエコンクールに北海道代表として出場を果たします。
しかし本戦では満足いく結果が残せず、自身の実力不足とともに、ソムリエとしての経験値を積む上での地域格差を実感します。
思い立ったらすぐに行動ということで、フォーシーズンズホテル丸の内東京へ移ります。在籍中にはスカラシップコンクールに出場し、見事スカラシップに選ばれました。
スカラシップ選出をひとつの契機に、新天地L’ASに転職します。
「基本的にどんな職場でも1年もやっていれば、そこで吸収すべきものは学びきれる。」という佐々木さんですが、L’ASでの在籍は気づいたら3年半になっていたとのこと。
「兼子シェフとの出会いは、わたしの人生の中でも運命の出会いのひとつです。一般的にシェフは有名になっていくにつれ、裏方に回っていくことが多いですが、毎日現場のど真ん中で指示を出し、檄を飛ばす兼子シェフと一緒に仕事ができたのは非常に刺激的な日々でした。」
レストランは、ランチ営業で気づいた問題点をその日のディナー営業で、その日のディナー営業で気づいた課題を次の日のランチ営業で、改善して実証していくことができるという非常に早いPDCAサイクルを持っている、と佐々木さんは語ります。
そのように日々PDCAを回せば、確かに1年あれば学びを吸収しきれそうなところですが、いかにL’ASでの毎日が濃厚のものだったかをうかがい知ることができます。
L’AS時代に佐々木さんが注力していたのは、レストランでのサービス業務だけではありませんでした。
佐々木さんはアカデミー・デュ・ヴァンでの講師というもうひとつの顔を持っていました。講座は非常に人気が高く、受け持つソムリエ、ワインエキスパート2次試験対策講座の数は2年連続最多だったということです。
そんな実績を買われ、またスカラシップコンクール時代の友人の誘いもあり、今日のヴィノテラス( https://school.vnts.jp )を創っていくこととなります。オンラインでのワインスクールです。
そこには、北海道にいたときに感じた、地方と都市部でのワイン格差をなくしたいという佐々木さんの思いも込められていました。
さらに、その傍ら佐々木さんは、「自宅に届くワインスクール」というHomewine/ホームワイン( https://homewine.jp )という事業もスタートさせます。佐々木さんがセレクトする小瓶サイズの高級ワインが毎月4本、解説動画付きで届くというサービスで累計15万本の出荷実績を誇る人気コンテンツになっているそうです。
さて佐々木さんのキャリアの秘訣はどこにあったのでしょうか?
お話をうかがった中で感じたのは、
・成長へのハングリー精神
・古巣を味方にできるコミュニケーション能力
・スケールできる方法での勝負
佐々木さんの強みのひとつは、間違いなくハングリー精神です。自分が成長するために、今いる職場でもできる限りのことをやり、やりきったら新天地を目指す。
「言うは易し」ですが、実際には職場・環境・目標と何においてもズルズル職場にいるだけ、環境に身を置くだけ、目標を持つだけになっている人もいるのではないでしょうか?
また、辞める度に不義理を働いていたら誰からも応援されず、実力があっても機会のない人になってしまいます。自分を成長させてくれた場所への最低限の礼儀は欠かしてはなりません。
最後に、物理的なモノを伴うことの多いワインの業界では難しいことかもしれませんが、スケールできるビジネスモデルで勝負するというのは、ビジネス的には非常に重要なことです。
非連続な成長、指数関数的な成長、そんなベンチャービジネスの世界では一般的に求められることを見事にワインビジネスに落とし込む佐々木さんはさすがといえるかもしれません。
最後にワイン業界で働く人(これから働く人もふくめ)への伝えたいメッセージをうかがってみました。
「これは、わたし自身が昔先輩に言われたことでもあるのですが、ソムリエはひとりひとりが自分自身を社長だと思って、将来図を描くことが重要です。特にこれまでは、ワイン業界に大きなピラミッドが存在しましたが、これからは自分たちでそのピラミッドを作っていくのも大事なスキルになっていきます。自分で自分のキャリアの舵をとれるようなソムリエを目指していただきたいです。」
ベンチャー起業家としての顔を持つ、ソムリエ佐々木さんの今後に是非注目しておいてください!
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